君と僕
「君と僕って似てると思わない?」
彼は読んでいた雑誌の手をとめて、僕の言葉の意味を探りかねているようだった。そうだろう。僕だって突然誰かにそう言われたらきっと同じ反応をする。だからすぐに答えをあげた。
「ほら、僕ってこの前までずっとアツヤじゃなきゃ自分は駄目なんだって思ってたじゃない? なんだろう、皆が必要としてるのは『僕』じゃなくて、『アツヤ』だって思ってたんだよね。だから僕は、懸命に『アツヤ』を演じ続けたんだ」
僕は自分が「アツヤ」であることが自分の使命のように思っていた。だからこそ、「アツヤ」になろうと、自分の存在を否定してただひたすらに求め続けていた。
「君も一緒だよね? 君は君じゃない『基山ヒロト』であろうとするように、『基山ヒロト』を演じ続けてきた。皆に求められているのは、自分じゃなくて自分じゃない『基山ヒロト』だって思い続けてた」
彼はまだ僕の話の真意をつかみかねているような顔をしていたけれど、話は聞いてくれているようだったので気にせず話を続けた。
「でも僕らは気づいた。自分以外の誰かじゃなくてもいいんだって。自分は自分でいいんだって。『アツヤ』じゃなくても、『基山ヒロト』じゃなくてもいいんだって」
その解に辿りつけば、いままでの重責が嘘のように軽くなった。「アツヤ」ではない自分を必要とされている。その事実がなんて素敵で幸福なものなのだろうと体いっぱいに感じた。そしてそれは彼も同じだろうと考えていた。
「ね? だから君と僕って似てると思わない?」
彼からの返事はすぐになかった。彼の表情に特に変化はなく、正直なにを考えているかその表情からはよくわからなかった。僕の言葉への返事を考えているのか、考えていないのか。でも僕自身、彼からの返事を必ずしも欲していたわけではないのでどうでもよかった。僕が言いたいことはすべて言ってしまったし、このまま部屋に帰って寝てしまおうか。そう考えた時、初めて彼の口が開いた。
「確かに、それは一理あるかもね。でも」
そこで彼は一度言葉をとめた。僕は静かにその言葉の続きを待つ。彼の言葉の続きはすぐにあたえられた。
「だからって、君とその傷をなめあうとは思わないよ」
ほらね、やっぱり似てる。