フォルカ詰め合わせ(スパロボ)
仮にも誘拐されてきた身であるショウコだから、本当はもっと警戒を強くしてもいいのだろうが、なんだかフォルカはあまり怖くなかった。兄とそれほど変わらない年頃に見えるからかもしれないし、幽閉されて早々に暇だ退屈だと暴れて以来、こまめに話相手として顔を出してくれる律儀な様に毒気を抜かれてしまうのかもしれない。
小難しい喋りかたをするくせにまるで一般常識を知らないのには呆れてしまった。
「ケンカって、ほら……ムシャクシャして人のこと殴ったり、傷つけたりすることよ。ショウコをここへ連れて来たときにも、大きなロボット同士でやってたでしょ?」
「あれは闘いだろう。ショウコの世界ではあれをケンカと呼ぶのか?」
「え、ええっと……呼ぶのかって言われちゃうとあたしもわかんないけど」
何しろスケールが違いすぎる。雷門を爪先で蹴飛ばしてしまえるくらいに大きなロボットが殴ったり蹴ったり一本背負いを繰り出したりするのを見たのはあれが初めてで、そして最後だと思いたい。
ショウコが悩んでいるうち自分で何がしか納得してくれたらしく、フォルカは行儀よくお茶を含んでひとつ頷いた。
「好きや嫌いで考えたことはない。修羅の者は文字より言葉より先に、闘うことを覚える」
「何それ、本当? やっぱり凄く変わってるね。ここの人って」
「そう……なのか」
「あなたが、ってわけじゃないんだからね! ……そりゃかなりフォルカも不思議なんだけど」
フォルカの眉間にまたぐっと皺が寄るので、ショウコは頬杖のために持ち上げていた腕を慌てて顔の前でぶんぶんと振ってみせる。
フォルカは他の修羅という人たちとは少し違う気がする。何かにひどく思い悩んでいるようなのだが、それをショウコが尋ねるのも少しはばかられた。ショウコはあくまで虜囚であって、彼らの客人にはなりえない。
行き場に迷った手が再び湯呑みに触れる。お茶の温度が陶器にまで染みて熱いそれを取り上げ吹き冷まし、口に含む。優しい甘さが舌の上で溶ける。
「フォルカってお茶淹れるの上手だね。これも誰かに習ったりするの?」
ああ、と少しだけ上がったフォルカの顔から強張りがとれている。
「兄が好きなんだ。自然と身についてしまった」
「素敵なお兄さんね。うちのお兄ちゃんとは全然タイプが違うみたい」
「尊敬している」
ショウコに応じて口元だけで微笑すると、フォルカはテーブル上の湯呑みへそっと視線を落とした。
「……そうだな、兄さんやフェルナンドと、今ショウコとこうしているように過ごすのは……好きだったのだと思う」
それがあまりにも心細げな独白だったので、ショウコは問い掛けることも続きを促すこともできず、ただぱちりと瞬いた。
作品名:フォルカ詰め合わせ(スパロボ) 作家名:yama