二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひとり

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「…一人なんか、なれっこだ」

私は深夜目を覚ます。ひどく喉が乾いていた。水差しでも、と頭上に手を伸ばしたが今は偵察ということで一時本隊を離れた身である。一匹の魔獣と交戦したとき川を見付けた、正確には落下したのだが、を思い出す。たしか、この野営地からそう遠くないはずだ。
私は魔獣の一件の縁で得た部下を起こさぬ用にそっと寝袋から抜け出した。

「ひどい顔をしている」
今にも死にそうな、……あの夢の中の自分と同じ顔が川にゆらゆらと映っていた。水を飲むために外した仮面の下の自分の表情が今度は嘲笑うように歪む。が生気のない目は相変わらずだった。
まだ夢に引きずられているのか、としかり飛ばす気力は今はない。
何度も友を殺した夢をみる。あの日とは細部を異にしながら、繰り返し、ただ変わらないのは魔獣になりはてた彼を私が殺す、ということ。あの瞬間、私、いや私たちにあったのは、殺さなければ死ぬ、という生存競争。私は私の正義のためにまだ討たれる訳にはいかなかった。
混乱も感傷も剣を振るう間は塞き止められ、感情が帰ってきたのは、彼がこの世を去ってから、いや、星の戦士としての彼はすでに消滅していたのだろうが。
だからだろうか、後付けされた想いが都合よく物語を改変しようとする。だが真実は変わらない。私が生き延びているかぎり、変わるはずかない結末。
だから私は夢で幾度も彼の命を断つ。
親友の死様を数え切れぬほど目のあたりにしながら、発狂しないのは私の精神が鋼の強度もつからだからか、あるいはとうの昔に狂っているのか。
そう、だからこれは罰なのだ。『友を躊躇なく殺した、冷徹な男』への。
冷静で、感情に左右されないこと。それは戦場に生きるものとして当然のこと。だが、それはときに冷酷、冷血と白眼視される。
宝剣ギャラクシアに選ばれし者、卿の称号。敬して遠ざけられることもしばしばあった。
「…一人なんか、なれっこだ」
無意識に夢と同じセリフを吐く。あぁそういえば今日の『戯曲』も酷い粗筋だったと口角をあげる。
いつも通り私たちは殺し合い、当然のごとく彼は倒れる。
そしてこの彼は言ったのだ。
「ひとりにさせてすまない」
無論現実の彼はそんなこと言わなかった。というより彼の最期の言葉があったのか、なかったのか、それすらも思い出せない。
幾重にも重なる、こうあってほしかったという妄想が本当の声を塗り潰し、残ったのは音のない世界。その世界のなか、ますます幻想は肥え太っていった。
いっそ、彼を憎めたら。そんな思いが夢の中の彼に暴言を吐かせる。罪悪感を感じさせぬほどに、あそこにいたのはただひとりの親友ではなく、理性を捨てた魔獣なんだと思えるほどに。
あるいは彼に詫びがしたい。罪の意識が贖罪を受け入れる恩赦の声を響かせる。友殺しの罪ではなく、止めてくれてありがとう、という許しの言葉に救われたくて。
けれど、そのどれの願いも夢のループを終わらせる終止符になってはくれない。
当然だ。そのどれもが私の心残りではないからだ。私は彼を殺したことを後悔しているわけではない。
魔獣化した彼が今この場に現れたとして、きっと私は剣をとり、彼を倒そうとするだろう。私が嫌悪するのは、それしか選択できない私自身だ。
思えば、私の生の長さと彼や彼女、ガールードとともに過ごした時間は、瞬きのようで、花火のように美しかった。
何故それを私は手放して生きていけるのだろう。
それをひとは強さと呼び、称賛し、ときに血の通わぬものとうとまれる。
そのような陰口を私は知っているが、言わせておけと思っていた。がある部下が中傷したものを叱責した。その部下は軍曹となったが、出撃後行方不明となった。
捜索に割ける時間も人員もない。救援隊を編成しなかった私を、冷血だと恨んだものをいるだろう。だが、それは私がよく知っている。
私を受け入れてくれたもの、友と呼んでくれたもの、純粋に憧れを抱いてくれるもの。私の前から姿を消して行く。
なら私が最後に信じるべきは正義であろう。それこそが、私を私たらしめている。
理性をもち、憎しみに生きなければ魔獣ではない。ひとでない私はひと以上に正義に、平和にこだわった。
私は彼の形見のロケットを取り出し眺めた。まだ幼い、赤子の写真。彼は事あるごとにこれを取り出しては、どこそこが自分に似ているだの、妻に似ているのだと見せつけていた。
血を受け継ぐ息子といえども、ほとんど会うことのできない我が子にどうしてあそこまで執着できたのか。正義を裏切ってまで、逢いたかったのか、私には分からない。
ひとにあらざる私だからか。魔獣はいつまでたっても魔獣なのだろうか。


そのとき、気配を感じ、私は仮面を身につけ身構える。
「ご主人?」
か細い声が聞こえ、私は力を緩める。
「ソードに、ブレイド」
本隊に帰還する直前に拾った若者たち。私私の門弟になりたいといい、ついてきたのだ。
「姿が、見えなかったので」
「おいていかれた、と思ったか」
ブレイドナイトがうつむく。
「置き去りにするくらいなら、最初から断っている」
その言葉に、ふたりの表情が明るくなったような気がして、私は仮面の下で微笑んだ。
なんと無防備で、なんと無邪気で、なんと純粋なのだろうか。このような“弱さ”を私は知らない。
けれど、胸に湧くこの暖かさ、それを愛しさ、というのなら私は孤独ではないのかもしれない。
月光の中、私は不意にそう思った。
作品名:ひとり 作家名:まなみ