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はろ☆どき
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novelistID. 27279
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ジャック・オー・ラ ンタンがやってきた!

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暗闇の中に火の玉が見えた気がした。
目を凝らして見ていると、ジャック・オー・ランタンがぼぅと浮かび上がり、ゆらゆらとこちらに近づいてきた。少なくともロイの目にはそう見えた。
そのままゆらゆらと、いやどちらかというとふらふらと、火の玉と共に寄ってきたそれが目の前まで来ると(目線はだいぶ下だったのだが)、オレンジのお化けの顔から突如、
「トリック・オア・トリート!」
という人ならぬものにしては可愛らしい高い声が聞こえてきた。


今日はハロウィンなので、村外れの小屋に仮住まいのロイのところでも仮装した子供たちの襲撃を幾度となく受けたが、用意した菓子でなんとかいたずらは回避した。
エルリック家のアルとロックベル家のウィンリィもまだ明るいうちにやってきた。
彼らは黒猫を従えた魔女というコンセプトのようだ。それぞれなかなか可愛らしいが、おそらく彼女の多大なる要望と趣味が盛り込まれているらしい様子にロイは(今からその調子では将来尻に敷かれるの確定だぞ、アルフォンス)と、ほろ苦い気持ちで見やった。
「エドワードは一緒じゃないのかい?」
こういう時はいつも三人セットなのに、もう一人のひよこ頭が見当たらないのが不思議でそう尋ねると、二人は顔を見合せてクスクスと笑いをこぼし、
「後で兄さんじゃなくてお化けが訪ねてくると思います」
とアルが教えてくれた。


「エドワードなのかい!?」
彼らの笑いはこのことだったのだなと思いながら、ロイは目の前のカボチャに声をかける。
「お菓子くれないといたずらしちゃうぞぉ」
エドワードとおぼしきお化けは、カボチャの頭に首から下は黒のポンチョのようなものを着ていた。手には電池式のランタン―おそらく火を灯すタイプは危ないとの母親の賢明な判断だろう―を握っている。
頭に被れるほどのカボチャだから、中身がくり貫いてあるとはいえ相当に重いだろう。年端のいかない子供にはなおさらのこと。
案の定、まっすぐ立っているのも難しいようで足元が覚束なげだ。
しかしそのあまりの可愛らしさには、つい意地悪を言いたくなるというものだ。
「ああ、お菓子を用意していたんだが、他のお化けにいたずらされないよう配ってたらなくなってしまったな」
「えええ~っ!?」
世にも悲壮な声をあげて、カボチャがごろっと派手な音を立てて転がった。いやカボチャを被ったエドワードが体ごと転がった。
ロイは慌てて駆け寄り助け起こして、カボチャのくり貫かれた目から中を覗きこむ。金髪に金眼、まろい頬。そうだこの子だ。弟ではなく兄の方。
「でもそうだ、エドワ・・・カボチャのお化け用に特別に用意したのがあるのを思い出したぞ」
「ほんと??」
途端に蜂蜜色の目がうるうるからキラキラに変わり、ランタンに焔を灯したかのようにぱぁっと明るく輝いた。
「ほんとうだとも。だからカボチャを外してうちにお入り」
「ダメだ。これ外したら人間だってばれてほんとのお化けがやってきちゃう。ぱっくり食われちまうんだって!」
大人顔負けの高等な理論を解するくせに、時としてこうも純粋培養なのはいったいどんな奇跡なのか。
その純粋さを守ってやりたいとも思い、現実を知らしめてやりたいとも思う。相反する気持ちに葛藤する大人がここに一人。
今は前者を貫くべきだろう。
「この敷地内には錬金術で壁を作ってあるからほんとのお化けは入って来れないよ」
「・・・ほんとに?」
うんうんとロイが頷くと、恐る恐るといった様子でカボチャの頭がすぽんと抜け、金色の頭が現れた。ぷはーっ、などと言って息をついているからやはり苦しかったんだろう。
「すごいな、全部自分でくり貫いたのかい?」
「うん!こういうのは錬金術を使わないで自分の力でやりなさいって母さんが言うから。すっげー時間かかったんだぜ!」
そう誇らしげに話す子供がいとおしい。
えらいなと頭を撫でてやりながら家へと促すと、エドワードは嬉しそうについてきた。
「カボチャのお化けが好きらしいドーナツとアップルパイを用意してあるんだ」
「まじで?それオレも大好物!やったー」
手放しで喜ばれると、この純粋さを守ってやれてよかったと思う。
─― 今はまだ。今だけでもまだ。
いずれ厳しい現実に直面する日が必ず来るだろう。その時まで、いやできることならずっと自分が守ってやれたらと、この日だまりのような子供に対しては何故か願わずにはいられない。
きっと叶わない願いだけれど。


「ところでお菓子がなかったらどんないたずらをするつもりだったんだい?」
「えーっ、考えてなかった!だってロイがくれないわけだろ?さっきないなんていうからほんとにびっくりしたんだぜ」
「はは、ごめんごめん。お詫びに後でエドの好きな焔の錬金術を見せてあげよう」
「わー、あれ大好き!すっげーきれいだよなっ」

たわいのない話をしながら二人が家に入り、ぱたんと扉が閉まった後には大きなカボチャの頭が取り残され。
それは二人のひとときを守るかのように入口から外をにらみ続けて、ジャック・オー・ランタンとしての役目を果たしたのであった。

Fin