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Happy Halloween Day

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空の色が黒一色に染められた深夜、ドアを叩く音が聞こえてきた。来たか、という意味も含めて溜息を吐くとチャールズは椅子から離れて、ドアノブに手を掛け、引いた。
「Trick or treat!」
 悪戯っ子がする様な満面な笑みでショーンが夜中にも関わらず元気の良い声で「ご馳走くれなきゃ悪戯しちゃうぞ!」と手を差し出してきた。
「はいはい、今用意するから待ってて」
 チャールズは台所に置いてあるバスケットの中から1つ残っているお菓子の詰め合わせが入った小さな袋を持ってショーンに渡した。
「サンキュー!」
 片手で袋を摘まむとショーンはドアを閉めたと同時にバタバタと足音を残していった。足音が遠退いていった頃に後ろから声を掛けられる。
「やっと終わったな」
 ドアから先程座っていた椅子の方へと向き直る。向かい合った先にはエリックが腰かけており口角を上げていた。
「そうだね。これで全員配り終わったってところかな」
 チャールズも再び腰掛け全身の力が抜けた様に肩を落として見せた。



 ハロウィンのお菓子袋を差し入れにしようと提案したのはレイヴンだった。日頃の特訓で疲れてるのであろう、皆の息抜きにでもなればいいと考えたらしい。確かに最近肩に力を入れ過ぎていた気もするのでチャールズもその意見に賛成だった。
 お菓子は全てレイヴンの手作りで渡すのはチャールズの役目と決まった。小袋自体透けている仕様になっていたので中身はすぐに分かった。カボチャの形を模したクッキーや色取り取りのキャンディー、小さな正方形のミルクチョコレートが詰め込まれており、甘い匂いが漂い、どれも美味しそうだった。
 早速皆に渡そうとした時、レイヴンに慌ててストップを掛けられた。
『駄目よ、チャールズ! 普通に渡しちゃ』
『え?どうしてだい?』
『だって面白くないじゃない』
 その時に例の『Trick or treat』を彼女から教えてもらったのだ。簡単に言えば合言葉みたいなものでそれを言われてからお菓子を渡すらしい。
 レイヴンがチャールズに言った時と同じように彼らに伝えて、チャールズも言われるまで渡さない様にと彼女に頼まれた。
 そして最後に少し遅れて貰いに来た相手がショーンだったのだ。皆楽しみにしていた企画だったが唯一エリックだけは参加しなかった。多分子供っぽいからだろうと思いきや本人曰く「甘い物は苦手だ」との事。
 けれども、今ならその理由が分かる。甘い物が苦手だと言っておきながら目の前のテーブルにはこんがり狐色をしたパンプキンケーキに爽やかな香りが漂うレモンティーが置いてある。
 恐らくエリックは自分と2人きりでハロウィンを祝いたかったのだろう。だからレイヴンの前では単に口実として使ったに違いない。
「…不思議だな」
 ケーキを口に運びながらエリックが呟く。
「何が?」
 紅茶の入ったカップに口付けながら目の前にいる男の次の言葉を待つ。真っ直ぐな、それでいてどこか優しさを含んだ瞳と視線が合う。
「いや…普段はこういう祭りみたいな事なんて特別どうも思わないんだが…何故だろうな、お前となら一緒に過ごすのも悪くない気がしたんだ」
 ふっとした穏やかな笑顔を見せるとエリックはレモンティーを一口飲んだ。彼が何を言うか大体予想はついていた。勿論テレパスなど使わずとも。けれども――まさか内心こんなにひどく喜んでいる自分がいるのには驚いた。
 思えば彼がああやって笑うのも自分の前だけな気がする。いつもは無表情までとはいかないがお世辞にも愛想が良いととも言えない。笑うと言ってもエリックの場合、皮肉めいた表情が思い浮かぶ。だからなのかもしれない。そんなギャップがあったからチャールズに純粋な、子供っぽい一面を見せてくれた事がきっとこんなにも嬉しかったのだろう。
「チャールズ、そのままじっとしてくれ」
 言われてぴたりと止まる。エリックの左手が、チャールズの頬に触れる。同時に口の端に柔らかい物が触れた。そして気付いた時には舌で唇を舐めとられており、チャールズは反射的に顔を離し、軽くエリックの胸板を押した。
「っ…どうしたんだい、お酒も入ってないのに…大胆じゃないか」
「そういうのもたまには悪くないだろ?」
「…言ってくれるね」
 立ち上がった時、チェアががたんと倒れる音がしたが無視をしてチャールズはエリックの胸倉を掴んだ。一瞬怯んだ隙をついて乱暴にキスをした。さっきのお返しだという勢いで舌を入れてやるとエリックもやっと察したのか両手で頬を押さえてきて同じ熱い舌を絡んできた。





 荒々しい口付けの中、微かにあの甘いパンプキンケーキとさっぱりとしたレモンティーの匂いがした気がした。





















END
作品名:Happy Halloween Day 作家名:なずな