小さな紙袋を君に
俺のことを大嫌いだと叫び散らしている、俺の大嫌いな男―平和島静雄が今日も一段と機嫌の悪そうな顔をして怒気に溢れた声を出し俺に絡んでくる。
そんなに嫌いなら、そんなに苛立つのなら絡んでこなければいいのに、そう思いながらも
「いやだなー、シズちゃん。別に俺は何もしちゃいないよ。ただ、用、があってこの街に来ただけ」
別段、詳しいことを話す理由もないので俺は適当な相槌を打って
「じゃ、そういうことで」と踵を返し、顔の横まであげた手を振りその場を去ろうとした時
「手前の用ってもんが信用なんねぇって言うんだよ」
更なる言いがかりをつけられた。
はぁっと一息大きなため息をつき振り返る。
「別にさ、君に何かしようってわけじゃないんだからほっといてくれないかなぁ。
それに今日は本当にちょっとした用事なんだ。もう時間になるから行くよ」
そう告げ、俺は背後からの苛立ちに溢れた視線を無視し、約束の場所へ急いだ。
もっとも、約束といってもあの首なしライダー、セルティに依頼した仕事の報酬を渡すだけのことだった。
「今日はなんとなく池袋にしちゃったけどやっぱりシズちゃんがさぁ、うるさいんだよね」
『それは…あいつもいろいろ思うところがあるんだろう』
珍しくセルティと彼のことを話した。何か解決しようとか、相談しようとかではなく
ただなんとなくスッとシズちゃんのことが口から出てきた。
出会いからして最悪だったシズちゃんを俺だって大嫌いだし、今更どうにかしようとなんて思わない。
ただこうも毎回絡まれると疲れる。
そんなことを考えながらボーっと空を見上げながら歩いていた。
そして雑踏のざわめきの中に一際目立って俺の耳に聞こえてきた呼び込みの声…
「そうか、あさってはバレンタインか。世の中浮かれてるねぇ」
浮かれた女たちの間を割って声のするほうへ俺は歩いていった。
「臨也、まだ帰ってなかったのかよ」
「フッ、今帰るところだよ。シズちゃん、君も目ざといねぇ」
目ざといね、などと言いながら俺は自ら会いに来た。
「ほら、そんな君にはこれをあげるよ」
「はあ゛!?」
「ハッピーバレンタイン!じゃあねー」
小さな紙袋を君に
大嫌いな君へ初めての贈り物