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君の手

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自分のものより少し大きくて骨ばった冷たい君の手。
俺に軽く触れるその手。
軽く触れられる度、全身に電気が走ったかのような感覚になる。
本来ならばこうして触れられることなどなかったはずの君の手。
殺したいほど大嫌いで、大嫌いで大好きな君の、大きな手。

なぜこうなったのか、なぜ今俺は綺麗に染め上げられた金色の髪を触れることが出来るのか。
人というのは不思議なもので、自分自身よくわからなかった。

今では新宿を根城にしていたが、それでもやはり池袋という街が好きだった。
何か仕事を見つけては足を運び、たとえ仕事がなかったとしても自然に池袋へ通っていた。
つまり、そのたびに【池袋最強】と言われている青年―平和島静雄に見つかり追い掛けられ、逃げ回る。
「まったく、しつこいなぁ。シズちゃんは。だから嫌いだよ」
追いかけられるたびに「まったく…」などとうんざりした様子をしてみせる。
誰かに見せるわけではないが、ただ、なんとなく自分がそう言ってうんざりしていると思い込みたかった。
けれどそんな思い込みはそう長く続かなかった。

あの日、池袋にいた俺はいつもと同じ様に静雄に追いかけられた。
いつもと違っていたのは追いかけられる俺のほうで……

「いーーざーーーやーーーー!!」
相変わらずドスの聞いた低い声を轟かせ静雄が近づいてきた。
「やぁ、シズちゃん。奇遇だねぇ」
ひらっと右手を頬の辺りまで上げ、徐々に距離を詰めてきた静雄と対峙した。
ちょうど60階通りの一本路地に入ったところだったので周囲には人がおらず、
それが功を奏したのか、静雄と向い合っているのにも係らず穏やかな空気が流れていた。
「シズちゃんさぁ、そろそろ止めない?追いかけっこ」
俺はいつもと変わらない笑顔を掲げながら静雄に言った。
静雄はサングラスの奥で何か気味の悪いものを見ているような目をしながら
「臨也、手前、今何言ったのかわかってんのか?気持ち悪ぃこと言ってんじゃねぇよ」
落ち着いたとも、不安に駆られたとも取れない声で臨也に問いかけた。
その言葉を聞いた俺は一歩、また一歩と静雄への距離を詰めていき
「だから、そろそろ追いかけっこは止めて、シズちゃんに捕まってみようかなって言ってるの」
静雄の頬へ手を伸ばしながら言った。
「シズちゃんももう俺追いかけるの疲れたでしょ?だから、さ」
頬へ伸ばした手をゆっくりと静雄の長く柔かい髪へ進め、そのまま顔を引き寄せキスをした。

「なっ…」

最初はそれを拒もうと体を離そうとした静雄だが、次第にそれは緩められていき
俺が何度も繰り返すキスに静雄の舌が応じた。

その日、そのまま静雄の部屋に行き、俺たちは体を重ねた。
何度も、何度も…
今までいがみ合って、殺したいほど大嫌いだと思い合っていた仲とは思えないほど。
強く、強く、激しく何度も体を重ねた。


日が過ぎて、また池袋に姿を見せると静雄は目ざとく俺を見つけた。
そして、変わらぬ様子で俺を追いかけ、そして路地裏にまで追い詰めると貪るかのように俺へキスをした。俺の体を求めた。

「シズちゃんすっかり俺にご執心だねぇ。やっぱり人間は面白い」

大嫌いで大好きな君の手に抱かれ、今日も俺は皮肉に笑った。
作品名:君の手 作家名:ましろ