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ハロウィンなんだぞ!

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「よーし、今年こそは驚かせてやるんだぞ! トニー、準備はできてるかい?」
「ダイジョウブダ」
 アルフレッドの家は、今日、ハロウィンのためにお化け屋敷のような内装へと作り替えられていた。
「今年こそ……!」
 決意を胸に秘めながらアーサーが来るのを待つ。
「キタ」
 トニーがつぶやく。そして聞こえてきたのは、待ちわびたインターホンの音。
「アルフレッド、入るぞ!」
「あぁ、いつでもオッケーさ!」
 開戦だ、とアルフレッドは気持ちを引き締めた。

 今年のハロウィンの結果は――
「よう、アルフレッド」
 部屋の扉を開け、勝ち誇った笑みを浮かべているアーサーが雄弁に物語っていた。
「…………もう! 何で驚いてくれないんだい!? 少しくらい驚いてくれたっていいじゃないか!」
「いいだろ、お前もほとんど驚いてくれなかったし。今年は引き分けだな……。あーくそ、こいつなら絶対に驚くと思ったのによぉ」
 アーサーの隣には、何やら大きなモノがいた。悔しそうに何度もそれをぽんぽんと叩いている。
「君は何度も勝ってるからいいかもしれないけどね、俺だって一度くらい君が驚いているところが見たいんだよ!」
 幼い子供が駄々をこねるように、口をへの字に曲げるアルフレッド。
「クヤシイ」
 その隣のトニーもうなずいている。
「来年は絶対に驚かしてやるんだぞ! な、トニー!」
「……ウン」
「俺をこんな程度で驚かせようなんて百年は早いな、アルフレッド」
 アーサーはそう言いながらも、何かを求めるような視線を送っている。
「よし、じゃあパーティールームに行こうじゃないか! 他のみんなが来るまでまだ時間があるんだし、のんびりするにはちょうどいいもんね!」
「そ、そうだな」
 もじもじしてないではっきり言ってくれてもいいじゃないか、と思いながら、苦笑して告げる。
「Trick or treat」
 言った途端、アーサーはぱぁっと顔を輝かせ、手に持っていた小さな紙袋を俺に差し出した。
「えっと、その、お前の口に合うかは分かんないけど、スコーン……作ったんだ」
「ありがとう、アーサー」
 満面の笑みで受け取ってあげると、アーサーは顔を真っ赤にしていた。
「べっ、別に、お前だけに作ってきたわけじゃないからな。フランシスとかアントーニョにすら作ってきてあるんだから、か、勘違いすんなよ!」
 そんなことを言っていても、緩みきった顔が本心をさらけ出していた。
「さぁ、パーティーの仕上げだ! トニー、そろそろ頼んだ料理ができあがってるはずだから、店まで取りに行ってもらえるかい?」
「ワカッタ」
「なぁ、何か俺に手伝えることは……」
 部屋を出ていったトニーを横目に、アーサーが尋ねる。
「アーサー、これは俺のパーティーなんだから、全部任せてほしいな。ゲストはゲストらしくのんびりしてるべきだろう?」
 俺がそう主張すると、アーサーはちょっと肩を落としてうなずいた。

 飾り付けの損傷はないし、警備体制もオッケー。今回のハロウィンパーティーは国のみの集まりとなったので、名簿は特に設けていない。
 誰がまだ来てないかは名簿なんかなくても分かるんだぞ。
 うんうんうなずき、じゃああとはトニーを待つだけだな、と考えていると、
「アルフレッド、時間あるか?」
 別の部屋にいたはずのアーサーがひょっこり扉から顔を出した。
「え? あぁ、準備なら終わったから平気だけど……どうしたんだい?」
「あのスコーンは……」
「スコーン?」
「まだ、食べてない……よな?」
「あぁ、まだ食べてないぞ。それがどうかしたのかい?」
「いや……その……嫌だったら、食べなくていいぞ」
「えっ?」
 驚きの発言に思わずすっとんきょうな声が出る。いつもは無理にでも食べさせようとしてくるのに?
「俺……お前に受け取ってもらえるとか思ってなかったし、もう十分だから。いいよ、ほんとに。捨ててくれても……」
 アルフレッドは、ふ、と表情をゆるめ、
「アーサー、俺、紅茶が飲みたいな! 淹れてもらえるかい?」
 笑みさえ浮かべてねだった。
「え……?」
「他のみんなが来るまで、まだ時間があるだろう? 君のスコーン食べたいな」
「えっ……あ、い、淹れてくる!」
 アーサーは慌てたようにきびすを返してキッチンへと向かった。鼻歌でも聞こえてきそうな足取りで。
「さーてと、俺はスコーンでも並べておこうかなーっと」
 部屋に並べてある皿を一枚取り、スコーンを並べていく。
 炭化したかのように真っ黒で、形もいびつなスコーンたちを、アルフレッドはすっと撫で、一つを持ち上げてかじり付いた。
作品名:ハロウィンなんだぞ! 作家名:風歌