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早朝散歩

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早朝散歩


いつもよりも早く目が覚めた清々しい朝。夢の中から案外すんなりと抜け出すことが出来、酷く心地よい。こんなにもすんなりと起きられたのは何時振りだろうか。
今日、塾は休み。一日暇だ。いつもなら一日の大半を布団の中で過ごして午後になってからやっとこさ起きる。しかし今日は早々に起きてしまい、その上こんなにも活動しやすい状態にある。このまままた寝てしまうのは何処か勿体なく思えた。
朝早くしか見れない光景、というのは本当にあったらしい。小鳥が騒々しいくらいに鳴き、日がまだ上がりきっていない。
(太陽よりも早く起きた)
ちょっとした優越感だ。静かに家族を起こさぬようにと気を遣いながら、襖を開けた。廊下は冷え切っていて、一歩踏み出す度に背筋が凍るような冷たさが体中を走り回る。流石に冷たさにまで優越感など感じている暇も無く、静かにしていようなどと云う大人な思考は早々に何処へやら、廊下を駆け抜けていた。
「うっさいわ、ボケェ」
唐突に横から掛けられた声に驚いて、つんのめる。しかしそこから器用にバランス移動をさせ、倒れるのを避けた。声がした方向を見ると、金造が居た。眠そうな顔では無く、何か面倒なものを見てしまった、と云う顔だった。顔が、雄弁に語っていた。
「なんや、金兄、起きとったんか」
「毎朝この時間やし」
俺を見くびるな、とまたもや顔が語っている。廉造は慌てて時計を見た。短針がまだ5時を指している。
「何時もこの時間かいな」
「せや、お前は何時も午後だもんなぁ」
嘲笑うように、鼻で笑う。反論してやろうかと想ったが、したところで何もなく、しかもこの時間だ。面倒事になるのが目に見えていた。
(大人な対応、)
朝早くから起きたお陰で心に余裕が持てたらしく、そんな事を考える。
「午後で悪いか。欲望に忠実や」
「お前の欲望はそないなもんか、たかが知れとるな」
殴りたくなった、なんて事は無いと廉造は誰に向かってか弁解する。
「金兄、何してたん?」
流石に部が悪いと解ったのか話を変える。金造は今からや、と下を向いて呟く。
「何が?」
「走りに行くん」
なんとまぁ努力家な事だろうか、廉造は驚いた。祓魔師には様々な能力が必要とされる。俊敏性、基礎体力、等々様々だ。しかしそれは、一般の人間よりも能力値が高くなくてはならない。そのためか、金造は毎日朝のランニングを欠かさずしていたのだ。
「なんか文句あるんかいな」
「何も」
何もしていないように見えて、影で努力をしている金造には今更ながら舌を巻く。
「それじゃ、そろそろ行くわ」
すっくと立ち上がり、廊下に一歩踏み出した。「寒っ」と小さく呟いて足早になりながら玄関へと向かう。その後ろ姿に、声をかけた。
「なぁ、金兄」
「なんや?」
自らを抱きしめるように肩を抱き、寒そうなまま振り返った。
「俺も行って良いか」


「あ、猫や!」
周りを憚らず大きい声を上げると、道を横切っていた猫は無様な声を高々と上げてから何処かへ逃げ去ってしまった。廉造は「あぁ、」と酷く悲しそうに云う。隣の金造は廉造に呆れ、溜息をついた。
「何やってんねん…」
「いや、こんなに早く起きたんは初めてやから…」
足は止めずに苦笑する。朝早くから外に出たことが無かった事と、何時も急いでいるためにゆっくりと見ることが無い変わったような景色が拍車を掛け、尚のこと廉造は興奮していた。走っていたら気がつかない道ばたに生えた小さな花、急いでいる時には鬱陶しく感じる信号の待ち時間。それすらも早朝魔法か、楽しく感じられた。
一番影響しているのは、隣に金造が居る事だろうが。
「たまには早く起きて走るのも良えな!」
廉造が一緒についてきてから、少し速度が落ちた。しかし廉造の笑顔を見てから何も云えなくなったように金造は黙々と走り始めた。
「なぁ金兄!」
怪訝そうに眉根を寄せて金造は振り返った。
「俺、早起きして良かったわ!金兄と一緒に走れたし!」
驚いたように一瞬目を見開いていた金造は、気がついたように遅れて頬を紅潮させて足を速くした。



作品名:早朝散歩 作家名:男子生徒A