雨
雨のせいで誰もいない公園の一角。
大きな枝を広げる木の下で少年が1人、雨やどりをしていた。
「まだやみそうにもないな」
降り止まない雨にうんざりしながら少年はため息を吐く。
初めは、小さな雨足だった。それがスピードを上げて雨足を増やしていき
かれこれ一時間も少年はココで足止めされている。
雨に濡れるのは嫌だからと、ココで雨やどりをしたのがいけなかったのか・・・そんな後悔を繰り返してばかりいた。
「・・・早くやまないかなぁ」
そうはいっても少年の力では、どうにもならない。
「まぁ、仕方ないけどね。」
少年はまた、ため息を吐いてゆっくりと目を閉じた。
耳に聞こえてくる雨音。
雨の匂いが緑の匂いと混ざり合う。
冷ややかな空気が霞を生む。
誰もいない公園は静かな時を刻み、雨は少年の周囲を包みこむ。
それはまるで、深海の様。
「お前も、難儀だよな」
目を開くと苦笑しながら、少年は背後の木を見上げてそういった。
四方に枝を広げる木は雨を凌いでくれる。
「俺にとっては鬱陶(うっとう)しくても、お前達にとっては恵みの雨、なんだよな。」
誰かがいった言葉を他人事の様に少年は口にした。
雨は彼ら【緑】にとっては必要不可欠のもの。
彼らが生まれるずっと前から雨はこうして成長を助ける。
「少し、心を癒してくれよな。」
焦る、逸る心を鎮める様に。
少年はそっと木に左手を当てもう一度、目を閉じる。
しばらくして木のエネルギーが少年の心に波のように寄せてくる。
静かだけど、暖かな癒しの光のエネルギー。それに身を委ねながら少年は、遠くで雨音を聞いていた。
次に少年が目を開いた頃には雨足が弱まり始めていた。
空を見上げると雲が風に流されて、そこから太陽が途切れ途切れに顔を出している。少年はそれを眩しげに見つめた。
もう少しすれば雨はやむのだろう。
「これで空を飛べる。」
少年は木から少し離れ、そして収めていた羽根を後ろに広げた。
広がるのは黒い翼。
「雨やどりさせてくれて、ありがとな。」
少年は、背後の木を振り返りお礼をいうと翼を羽ばたかせて空に浮いた。
「さぁて、行こうかな。」
少年はそうつぶやいて飛び立っていった。
少年が飛び立った後、雨足は徐々に小さくなり、そしてやんだ。
辺りには小さな水溜りが出来て、そこには澄んだ青い空が映っていた
fin