金の林檎の幻想曲
ガバッと起き上がった了平はそのまま、仁王立ちで拳を振り上げる。その姿にツナヨシは何か違う記憶が浮かびかけるが。
「極っ限!!(カーン)どうだ(カーン)、サワダ!(カンカーン)知恵はついているかっ!(カンカンカーン)」
「あ、えーっと・・・」
非常に言いにくい話だが、以前とあまり、というかまったく変わっていない。相変わらず極限、ド・ピーカンなままだ。さらに動くたびに頭部からカーンカーンと音がするというのも、非常にやかましいし、マヌケである。
「まあ、元が元だけにこんなものでしょうね」
「了平さん・・・」
知恵をつけるはずが、この結果。そこはかとなく、状況は悪化していると感じるのはツナヨシの気のせいではないはずだ。にもかかわらず。
「そしてクローム、君は何を願うのですか?」
「ムクロ様。わたしは心が欲しいです」
「ふむ、いいでしょう。君に心をあげましょう・・・ただし、即座にボクに心奪われる」
「はい、ムクロ様」
「いやいやいや」
――――もはやツッコむ気力も消失する。
(こいつ、もしかしなくても『いい魔法使い』どころか、『悪い魔法使い』なんじゃ・・・)
何というか手口が悪徳商法、詐欺まがいのインチキ魔法使いそのものである。
ジト目でムクロを睨むツナヨシに、非常にウキウキとしている魔法使い。
「で、君はボクに何をねだるのですか?」
ねだるって、またイヤな表現だが。
「えっとさ、できたら『金の林檎』が欲しいんだけど」
「・・・ほう、金の林檎ですか」
「うん」
「ところで、君はそれをどうするつもりですか?」
「え?」
「おいしく食べるとか、庭に埋めて育ててみるとか、・・・まさか!誰かにあげる、つもりではないでしょうね」
自分の言葉に次第に機嫌が悪くなっていく、魔法使い。彼の機嫌に共鳴してあたりに漂う霧がその濃さを増していく。徐々に実体ともとれるほどに密度を増した霧は、鎌首をもたげ攻撃態勢をとったヘビのようだ。
(あ。なんか、マズイ?)
血が鳴らす警鐘に、ツナヨシの頬がひきつる。
「・・・クフフ、させませんよ」
「はい?あの、ムクロ?」
「どこにも、誰の手にも、渡すものか!!」
「ちょ、ま!んぎゃーーーー」
ムクロの叫びを合図に、霧が一斉にツナヨシに襲いかかる。ツナヨシを絡め取ろうと迫り来る無数の触手を見たツナヨシは、
「ひぃ!」
瞬時に回れ右すると、脱兎のごとく逃げ出したのだった。