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アンバーライト

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 くるりと可愛く鏡の前でターン――そんなことが出来る程、健全な男子高校生たる人吉善吉にいじらしい乙女心は備わっていなかった。
 生徒会室に置かれた全身鏡の中には、大分見慣れた黒い制服姿の自分が映っている。
 見慣れた姿であっても、それが似合っているような気になれないのは、自分の中に「人吉善吉に黒服は似合わない」という固定概念ががっちりと居座っているからである。
 いっそこの際、似合わない服着て似合わないことやってやろうか――自暴自棄一歩手前の思考回路。
 鏡の前で可愛らしくくるりとターン、を善吉が実行する直前、がらりと勢い良く生徒会室のドアが開いた。

「ん? どうした、善吉。また鏡など見て」

 パンッ! と気持ちのいい音を立てて、黒神めだかは扇子を閉じた。
 本当に、本当に自分の中に乙女心がなくて良かったと善吉は安堵。
 もしあのタイミングで、僅かばかりの乙女心が自暴自棄の思考回路に燃料を投下してこの身を動かしていたら――二歳から付き合いのある、互いのことを知り尽くした幼なじみに、見られなくてもいいものを見られるところだったのだ。

「グ、グッジョブ、俺……」
「何か言ったか?」
「いや全く何も申していません!」

 ふぅん、とわざと無関心を装うようにめだかが善吉の傍らを通り過ぎる。すたすたと彼女が歩む先には、お約束の生徒会長の席。
 特にこれといった音もなく彼女は着席。すらりとした美しい曲線を描く脚を組み、悠然と微笑んで見せた。

「似合わぬ似合わぬと思うから似合わぬのだ。大体人は服を着るが、服は人を着ないぞ?」

 ふふん、と得意げなめだか。
 一方善吉は、うっと言葉を詰まらせて身をのけ反らせた。
 初めてこの黒い制服に袖を通した時、善吉は自ら「黒い制服は似合わない」と零していた。めだかは「そんなことはない」と言ってくれたが、やはり人の目は気になるものだ。

「馬子にも衣装、って言葉があるが俺の場合はそうでもないだろ。立派に見えるどころか、配色最悪だ」

 はあ、と鏡を背にして深く溜息を吐く。
 めだかは濡色の長髪に凛とした態度も相俟って、黒服が彼女の気高さをよく引き立てている。
 しかし善吉の場合はというと、髪を含め全体的に色素が薄いものだから、黒服というのは全体のバランスから浮いてしまう。一般生徒用の白い制服ならば、似合う似合わないは別にして色のバランスとしてはそれほど酷いことにならない。
 好意を寄せる幼なじみから褒められても善吉の気分は全く浮上しない。
 自分の身体が順調に細胞分裂を繰り返す限り、善吉の色素が変わることはない。そしてめだかの側にいる=生徒会にいる限り、この黒服を着続けなければならない。
 あー、とさして意味のない声を上げて天井を見上げる。こんなことで些細な悩みが解決出来れば人生それほど苦労はない。

「貴様は最悪の配色というが、私には全くその訳が分からん」
「だってめだかちゃん、金髪に黒服だぜ? 一番やっちゃいけない配色だろ」

 はあ、と善吉が項垂れる。
 善吉の説明に納得出来る人間は少数派――そんな表情でめだかが口を開いた。

「何を言うか、善吉。危険の黄色に立入禁止の黒だ」
「は?」
「つまり歩く危険地帯ということだ。狂犬が歩いていると言ってもいい。いや、ピンを抜いて叩き付けてから3秒後の手榴弾か?」
「……最後がよく分からないんだが」
「ふむ」

 めだかとしては会心の言い回しだったらしい例えは善吉には全く理解不能のものだった。
 ちょっと残念そうな顔をして、めだかは思案。その顔がぱっと明るくなるのに掛かった時間は二秒。

「善吉はそれでいいのだ。狂犬は危険なものだと相場が決まっておる」

 朗らかな笑顔でめだかが告げる。
 釈然としない気持ちのまま、善吉は再度鏡と対面。
 黄色と黒という、全身の《俺は危険です!》という主張はやはり、善吉の望むところであるようで小さな差異があるのだ。


(091219)


作品名:アンバーライト 作家名:てい