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しーど まぐのりあ7

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足の鎖は、イザークが鍵で開放した。すらりと伸びたキラの足は、傷跡ひとつないことに、カガリは安堵する。なぜ、鎖を外されたのかわからないキラは、少し首を傾げて、イザークを見る。
「オーブの皇女から、担保を預かった。こいつが、返済に訪れるまで、おまえは客人扱いをする約束をした。」
 イザークの手には、自分の母親がカガリに託した髪飾りがある。さらに、カガリ自身の身分を証明する指輪と首飾りもあ、それにキラは顔色を曇らせた。それがなければ、オーブ本国に戻れても、王宮に入ることは難しいからだ。そんなキラに、イザークは微かに口元を緩める。
「俺だって、これの重要性は理解している。これは、鷹に預けるだけで、用が済めば、皇女に返す。」
「キラっっ、すぐに父上にお金を用意してもらって戻ってくる。だから、それまでに身体を治しておくんだ。もう、おまえは、こいつらの召使なんかじゃないから、好きなようにしていればいいんだぞ。」
「いや、そんなことはいいんだ、カガリ。それよりもいいの? それは、きみが欲しくて、母上におねだりしていたものだろう? 」
 その髪飾りは、本来、王妃から次の王妃へ送られるべき由緒ある品で、小さい頃からカガリが欲しいとねだっていたものだった。もう、次はいないだろうから、と王妃は寂しそうに、カガリに譲ったものである。
「いいんだ。担保なんだから、私が戻ってくれば、また私の手元に戻ってくる。それまで、そいつに貸してやるだけだ。」
 足の鎖がなくなったキラは、もう束縛されたりはしない。そのために、大切にしている髪飾りが一時、自分の手元からなくなってもいい。
「キラ、ごめんな。待っててくれ。」
 カガリは、キラの手を取って謝る。たくさん、キラは自分のためにしてくれた。それなのに、自分ができることは鎖を外すだけというのが歯痒い。この時ほど、カガリは自分が子供だということを痛切に感じた。



 離れの居間では、鷹とイザーク、ディアッカが打ち合わせをしていた。すでに、午後からの汽車の手配はできている。そして、月下美人館から届けられた薬と、カガリの指輪と首飾りが、机に載っていた。ひとりでも帰れるだろうが、念には念を入れておく。
「『エンディミオンの鷹』の知名度というものに左右されるが、問題はないだろうな? 」
「まあ、大丈夫だろう。長年、培われた実績があるからな。アイシャのクスリは、三日目の朝に飲ませるけどさ。キラのことは、どう説明すんの? 」
「途中の宿で不治の病で倒れたとでも説明しておけ。カガリには、それを報せないようにしていたともな。第三皇子は亡くなったと思わせておくのが最善の策だ。探索されては、煩くてかなわん。」
「了解、しかし、残念だなあ。俺、まだキラを完全に口説き落としてないのにさ。」
「おっさん、おっさん、そういうのは帰ってから、じっくりやれよ。だいたい、キラは、ここの住人に確定なんだからさ。」
「おまえらはいいよ。借金のカタに、おいしく食べたんだから。」
 鷹は、長年、傭兵としてあっちこっちの戦場に赴き、それなりの功績をあげている。二十年ばかり暴れると、しばらく姿を隠し、その子供だということで再び、戦場に現れる。そうして繰り返して作られたのが、「エンディミオンの鷹」という二つ名だ。どこの国の将軍たちでも、その名は知られている。オーブの皇女を保護して送り届けるというなら、この名を使うのがいい。それなら、キラのことは病死で片付けて貰える信憑性も併せ持てるからだ。
「まあ、これでキラは、あの皇女が戻ってくるまで生きていなければならない必要ができた。なかなか、いい作戦だ。」
 生きている気力がないキラでも、カガリとの約束があれば、とりあえず生きていることはできる。そのうち、それが惰性へと切り替われば、キラは完全に、この街の住人となって、キラの国の最後の一人となる。
「それまでにアスランが口説き落としておけば、キラも笑えるようになるだろう。クスリは飲ませたら、三時間もすれば記憶そのものが危うくなって心神耗弱状態になる。アイシャが特に強力に仕上げてくれたから、そのつもりでいてくれ。」
「虎さんちの女房だけは敵に回したくないね、俺は。」
 月下美人館の女主人は、クスリの調剤に関する知識が豊富で、いろいろと役に立つものを作ってくれる。しかし、それらを自由に使えるのだから、言わずもがなな存在でもある。
「俺もアイシャだけは怖い。ディアッカが、以前、一服盛られたのを間近にしているからな。」
「あー俺もさ。自分がやられてるからなぁ。」
 ディアッカも鷹も、虎の留守中に、アイシャを口説こうとしたので、その罰を受けた。ディアッカは、しばらく眠り姫のごとく目覚めなくなり、鷹は、しばらく使用不能にされたらしい。そんな話をしていると、寝室の扉が開いて、キラが顔を出した。鎖がないので、こちらまで歩いて来られる。三人の傍まで来ると、片膝をついた。
「お願いがございます、イザーク様、ディアッカ様。」
「なんだ? 」
「カガリの見送りに駅まで外出させてください。」
「その格好は、些か刺激的すぎるよ、子猫ちゃん。」
 鷹の指摘通り、キラは寝間着のままだ。着るものも取り上げられていて、それしかないのだから、キラにどうこうできることではない。
「もちろん、許可するさ。それから、おまえの着替えも用意させる。おまえは客人だからな。」
「ありがとうございます。」
 お辞儀をして再び、顔を上げたキラは少し微笑んでいた。菫色の瞳が少し明るく輝いているのを目にして、三人も微笑み返す。亡国のものが微笑みを取り戻せば、ここで生きていけるからだ。


作品名:しーど まぐのりあ7 作家名:篠義