Plam4
劣性遺伝
握った拳を、叩きつけてやれたら。なにか変わったのだろうか。沢田綱吉は崖っぷちに立たされていた。いや、崖をはいあがったことあるけどね修行で。
それでもまさか。まさかのまさか。こんな絶壁を絶望を再び感じようとは。
「聞いてるのかい」
うるさい。その気持ちだけで見上げた視界に映る男。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。睨んだところで、消えようはずもない鮮やかな、自分の敗北が見える。
似てる?バカな。
生き写しも程々にするがいい。この男の遺伝子の半分は、いったい何をしてるのか、職務放棄か?
それとも、やはり。
あの男の遺伝子には敵わなかったのか?
ああ、笑い声が聞こえるようだ。あの時間が経つほど冷たく、殺したくなるほど美しくなっていく声が。
「ねえ、耳かっぽじって、聞きな。いいかい」
僕が君の娘を奪う男だ。
握った拳を、出来ることなら己が股間に叩きつけたいと。心底、思った。ちくしょう。ギリギリ歯を鳴らしたところで、変わらない、消えない。
また、この、目の前で傲慢に笑う、遺伝子にたぶらかされた。
「なあ、ヒバリ」
「なんだい?赤ん坊」
「復讐だったのか」
「いやだね。君がそんなつまらないこと言うなんて」
「現実とはつまらないもんさ」
「ああ、本当。あの面白い君はどうしたのさ」
「贅沢だヒバリ」
――お前にとって最高に面白いやつは今も健在だろう――
「撤回しよう。やっぱり君は特別」
「二番目なんざごめんだ、しかもあのバカのな」
「それはもう、僕だって嫌なんだよ本当に」
でも、ダメなの。
「僕のこどもが手に入れなくともきっと、いつかはこうなったさ」
僕の遺伝子はきっと、どれだけ遠回りをしようと。どれだけ僕の情報が削られようと。あの子の遺伝子と混ざりあうようになってるんだ。
「オレンジの炎に、引かれた羽虫だな」
「焼けぬ炎だけどね」
「焼かれたいのか」
「さあね。ああ、あの子に伝えて、今度抱きにいくって」
原子まで分解されたあのときに、君と混ざっていたらこんな面倒いらなかったね。
雲雀恭弥の息子と、沢田綱吉の娘の結婚話。