来週の予定は未定
通常、非日常であるこの光景も、ここ池袋では日常。
...ただ、池袋であっても来良高校の前では非日常である...
「いぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁ!!!てめぇっ!池袋には来るんじゃねぇって言ってるだろう!!死ねっ!死ねっ!!!」
「うるさいっ!!化け物のくせに帝人君と一緒に出掛けようなんておこがましいんだよっ!校門前で待ち伏せだなんてストーカーなの?化け物でストーカーなんて手におえないねっ!!」
「うるせぇぇぇんだよっ!!てめぇこそこんな所にいて、帝人に変なちょっかいかける気だろう!!帝人をてめぇの玩具になんてさせねぇからなっ!!」
校門前はまさに戦場と化している。この二人が揃う前に運よく帰宅出来たものは少数で、殆どの生徒は校舎から様子を覗っている状態。生徒は巻き添えを食らうモノかと一言も発していない為、その二人の声はまわりによく響いた。
....そう、二人が連呼しまくっている”帝人”という名前が_____
「帝人と俺は約束してるんだよっ!てめぇは邪魔だから消えろ!!」
静雄がそう叫んだ時、涙目になりながら学校を飛び出してきた帝人が叫んだ。
「二人ともやめてくださいっ!!それに喧嘩しながら僕の名前の連呼とか最悪すぎますっ!!もう恥ずかしくて学校これなくなるじゃないですかっ!!」
「わ、わりぃ!」
「大丈夫!!そしたらそのまま俺の所に永久就職すればいいよっ!帝人君との新婚生活....っ!!」
怒る帝人にシュンと項垂れる静雄と、自分の言った言葉に歓喜のあまり自分自身をぎゅっと抱きしめ興奮している臨也。
まさに正反対の反応に、涙目だった帝人は思わず頭痛を感じ手で頭を抑えた。
「はぁ...とにかく学校の前では絶対に喧嘩しないでくださいね。えっと...臨也さん、僕今日は静雄さんと出かける約束しているので、すみませんけど...あの...」
「はぁ?!!なにそれ!静ちゃんなんかと出かける約束だなんて許さないからね!!静ちゃんほっておいて、俺と夕飯食べに行こう!今日はなんか鍋の気分だよね!うん、鍋、鍋にしよう!!」
「我儘言わないでください。先に静雄さんと約束してたんですから...。鍋は今度いきましょう、ね?」
ここで素直にひいてくれたら大人の男性って感じで素敵ですよね...とにっこり微笑みかける帝人に、ひく以外の選択肢は用意されていなかった。
「わ...わかったよ!じゃあ、次の予定がない日に俺と鍋だからね!絶対だよ!!」
「はい、約束ですね」
にっこり笑った帝人に絶対だからねっ!と半分泣きそうになりながら臨也は新宿に向かって帰って行った。
「...ったくうぜぇノミ虫だぜ!ノミ虫は本当に性格のねじまがった最低な奴だからな!何かあったらすぐに俺にいえよっ!」
「はい、ありがとうございます。ところで時間なくなっちゃいますから、早く行きましょう?今日は目玉商品に苺のクリームタルトが出るみたいですよ?」
「ま、マジか?!だったら、急がねぇといけねぇな!」
先ほどの騒動が嘘だったかのように、和やかになった静雄を引連れて帝人は来良高校を後にした。
遠巻きに見守っていた来良の生徒達はその光景を茫然と見つめ、”竜ヶ峰帝人”名前だけなら有名なこの生徒を怒らせない様にしようと密かに胸にしまいこんだのだった。
* * *
カタカタとキーボードを打つ音が休むことなく室内に響き渡っていたが、不意にその音が止んだ。
「帝人くん!明日は俺と一緒に鍋食べようっ!放課後迎えに行くからさ!!」
「...臨也さん勝手に入ってこないでください。それに明日は正臣と園原さんと三人で放課後出かけるから無理ですよ」
はぁ、とため息一つ。
丁度終わったアルバイト内容をメール送信しながら、不法侵入してきた臨也に返答する。
「...じゃあ明後日...」
「明後日はセルティさんに夕飯に誘われているので無理です。ちなみにその次の日は遊馬崎さんと狩沢さんにお手伝いを頼まれてるので...」
「あぁ!!!もうっ!!!だったらいつだったら空いてるのさっ!?さっき調べたら静ちゃんとは毎週木曜日はケーキバイキングに行ってるみたいだし、土曜日は首なしライダーの家でホームパーティー、日曜はワゴン組の連中と絡んでるみたいだしっ!!」
帝人の申し訳なさそうな返答に、ついに今までこらえていたのか爆発したのか、プルプル震えたと思ったら、次の瞬間には大声で叫びだした。
確かに最近の帝人は毎日毎日予定がびっしり詰まっていた。
委員会でつぶれたり知人らと出かけたり...
「だからさっき今度って言ったでしょう?...僕、来週の予定は未定ですよ」
「え...?それって...」
「...来週はまるまる未定なので、予約をいれるなら今ですからねっ!」
そういいながら、パソコンに向き直し臨也の存在を無視するかのようにキーボードをたたきだした。
後ろを向いてしまったせいで帝人の顔は見れなかったけれども、真っ赤に染まった耳が雄弁にすべてを語っていた。
「っ!!あぁぁぁもぅっ!帝人君可愛いすぎっ!来週は一週間全部俺が帝人君の時間もらうよ!鍋して、ショッピングして、静ちゃんとだけなんてかなりムカつくからケーキバイキングにも行って、俺の部屋とか帝人君の部屋でまったりして...予定はびっしりだからねっ!」
「はい、はい。ところで明日も学校があるのでもう帰ってくれませんか?」
「え?ここは泊まって行ってくださいって言うところじゃないの?」
「明日学校があるって言ったじゃないですか...。このままだと寝不足で今日した約束すっかり忘れちゃいそうです...」
にっこりいい笑顔で言うと、臨也は今までの我儘が嘘のようにさっと踵を返して笑顔で立ち去って行った。
静かになった室内で帝人はパソコンをシャットダウンした。
「はぁ...まったく分かってないんだから...。今週は波江さんから仕事の締切多くて大変だって聞いてたから、来週臨也さんとの時間を作れるように今週皆との約束を詰め込んだっていうのに...」
そうまでしてでも、臨也との時間をしっかり作りたいと思う自分自身についつい苦笑してしまう。
「怖くて告白なんて出来ないけど...大好きです、臨也さん...」
無意識に口から出た一言を噛みしめながら静かに意識を遠のかせていった。
--来週には無限の幸せを---