あいして る
「あいしてる」
男の声は静かだった。
午前2時を回っても、池袋は眠らない。
しかしその喧騒に掻き消されることなく、静雄の言葉は臨也の鼓膜に届いていた。
男の目は真剣だった。
諸”刃”の剣。言葉の通り、互いに武器を突きつけた状態のまま。
愛の告白というシュチュエーションには、相合わない。
「ねぇ、シズちゃん」
( 嗚呼 嗚呼 嗚呼 )
「すっごく、ムカつく」
( 失望 絶望 欠望 )
殴って、いい?
相手の返答を待つ気は、最初から無かった。
静雄の腹部に突きたてたままのナイフ。
からん、と音を立ててそれが地面に落ちるのと同時に、臨也は静雄に拳を向けていた。指の骨が、悲鳴を上げる。
静雄に、痛みは無かった。
しかしサングラス越しの双眸を、丸くした。
目の前の男が、こんなにも、感情を”顕”わにした姿を静雄は初めて見た。そう、初めて、始めて。
「ほんっと、無茶苦茶だよねぇシズちゃんは」
ほら、
「しないの?”仕返し”」
やってよ、
「その標識で俺の頭をかち割る?自動販売機を投げ付けてみる?それとも俺ごと交差点に投げ込む?それともさ、その手で俺の首でも絞めてみる?」
ねぇ、
「俺を殺してみせてよ」
相 合 逢 遭 遇 間 哀 シテル なら
「ねぇ、シズちゃん」
アイ
し
て
る
な
ら
そ
の目に
俺
を
映
し テ
セ
るなら
「折原臨也は、平和島静雄が、世界で一番嫌いです」