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ゆち@更新稀
ゆち@更新稀
novelistID. 3328
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あいして る(続)

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「しばらくは、右手は使えないわね」

器用に巻かれた包帯。ぐ、と力を入れると骨に響く痛み。

「その分、波江に働いて貰うからいいよ」
「嫌よ。自業自得、でしょ?」

わかってて、”手”を出したんだから

「そんなに、悔しかったのかしら?」
「…随分楽しそうに聞くね」
「あら、そう?そうね…貴方に興味なんて塵程も無いって思ったけれど」

貴方のそういう姿は、見ていて心地が良いのかもしれないわ

「貴方は臆病者なのね」

今宵のこの女は、酷く饒舌だ。
部屋につんと香る消毒液の匂いに、酔ったとでも言うのか。
酷く、酷く楽しそうな声色に聞こえる。顔色すら、いつもと寸分違っていない筈なのに。

「”愛してる”って、言われたかったんじゃないの?」

ふつふつと湧き上がる。

「言っていたじゃない。『俺がこんなに人間を愛しているんだから、人間もまた自分を愛すべきだ』って」

しゅうしゅうと煙を吐く。

「貴方はただ―――」

ピィィィ――!!!
響いた、高い音。
女は小走りに台所に向った。
男はただ、その背中を見送って、ふと冷めたコーヒーに映った自分の顔が、”笑って”いなかったことに気付く。
可笑しい。

数分してから、女は淹れたばかりのコーヒーカップを持ってまた部屋に戻ってくる。”いつも通り”の、女の顔。

「波江の愛はさ、歪んでると思うよ」
「そうね」

それが、どうかしたのかしら?
女はいつも、まるで男の問いには毛程も意義が無いように、機械のように同じ返答を繰り返し続ける。
女の、そういった”人間味”溢れる部分は非常に魅力的で、気に入っている。だから、いつもならそれでいい、それがいいと思えた筈なのに、今回は酷く、癪に障った。
右手を握って、発する痛みに一瞬ちらついた、黒いガラスの向こうの真摯な瞳を頭の奥深くに封じ込めて、男は”いつも通り”に口元に笑みを浮かべた。