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ゆち@更新稀
ゆち@更新稀
novelistID. 3328
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【ノマカプAPH】白の檻

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( 持ち上がらない )



一度、深呼吸をしてから、柄を握り直して再度腕に力を入れる。
全身の筋肉を上手く利用しながら、なんとか腕の延長線上にまで刀身を上げることが出来たが、一度ぐらりとバランスを崩す、そのまま後ろへ倒れこんだ。倒れる、と思った。


「扱い慣れていないものを使うのは、難しいですよ」


自分はこの男に受け止められたのだ、とナターリヤはまた漠然と思った。身体ごと、自分を受け止めるその腕を一瞥してから、男をまた見上げた。


「お前、案外力があるんだな」
「なんです、急に」


それ、


既に持ち主である男の手に渡った長刀を指差すと、ナターリヤは、緩く首を傾げた。断りもせずに相手の腕に触れてから、もう一度。


「お前は、いつも軽々これを振り回しているから」


細腕、確かに女である自分よりは筋肉質な腕。
それでも、自分の兄や、他の男共と比べたらはるかに劣って見える。

洋装、Yシャツから覗く手が、刀を鞘に納めた。


「サーベルの方が、軽くて使いやすいんじゃないか」
「ええ、でもあれでは軽すぎて、」


一瞬。
瞬きの間。

鞘から飛び出した刃物が、空を切る。
ごとん、と人に模されたのであろう藁の、崩れる音。


かちん、と鞘が収まる音に、ようやくナターリヤは瞬きを思い出す。


「一撃で、相手の首を飛ばせませんから」


なんて、ね
冗談でも言ったつもりのように、笑う。


「どうして」
「はい?」
「どうして、出来る必要があるんだ」


男が、ぱちりと一度瞬きをする。


「”な”いのと、”あ”るのでは、違うんです」


何も、かも、が


ナターリヤによって放り投げられていたままの薄紅梅の袋を拾い、丁寧に刀をその中へとしまう。
男は、一度、まるで祈りを捧げるかのように瞼を閉じる。
それもまた、刹那の出来事であったけれど。


「さあ、行きましょうか」
「何処へ」
「何処へって、イヴァンさんの所ですよ」


私を迎えにきたのでは、ないんですか?





白の檻