【ノマカプAPH】白の檻
( 持ち上がらない )
一度、深呼吸をしてから、柄を握り直して再度腕に力を入れる。
全身の筋肉を上手く利用しながら、なんとか腕の延長線上にまで刀身を上げることが出来たが、一度ぐらりとバランスを崩す、そのまま後ろへ倒れこんだ。倒れる、と思った。
「扱い慣れていないものを使うのは、難しいですよ」
自分はこの男に受け止められたのだ、とナターリヤはまた漠然と思った。身体ごと、自分を受け止めるその腕を一瞥してから、男をまた見上げた。
「お前、案外力があるんだな」
「なんです、急に」
それ、
既に持ち主である男の手に渡った長刀を指差すと、ナターリヤは、緩く首を傾げた。断りもせずに相手の腕に触れてから、もう一度。
「お前は、いつも軽々これを振り回しているから」
細腕、確かに女である自分よりは筋肉質な腕。
それでも、自分の兄や、他の男共と比べたらはるかに劣って見える。
洋装、Yシャツから覗く手が、刀を鞘に納めた。
「サーベルの方が、軽くて使いやすいんじゃないか」
「ええ、でもあれでは軽すぎて、」
一瞬。
瞬きの間。
鞘から飛び出した刃物が、空を切る。
ごとん、と人に模されたのであろう藁の、崩れる音。
かちん、と鞘が収まる音に、ようやくナターリヤは瞬きを思い出す。
「一撃で、相手の首を飛ばせませんから」
なんて、ね
冗談でも言ったつもりのように、笑う。
「どうして」
「はい?」
「どうして、出来る必要があるんだ」
男が、ぱちりと一度瞬きをする。
「”な”いのと、”あ”るのでは、違うんです」
何も、かも、が
ナターリヤによって放り投げられていたままの薄紅梅の袋を拾い、丁寧に刀をその中へとしまう。
男は、一度、まるで祈りを捧げるかのように瞼を閉じる。
それもまた、刹那の出来事であったけれど。
「さあ、行きましょうか」
「何処へ」
「何処へって、イヴァンさんの所ですよ」
私を迎えにきたのでは、ないんですか?
白の檻
作品名:【ノマカプAPH】白の檻 作家名:ゆち@更新稀