かごとり
「……はい」
それがどういう意味なのか、俺にだってわかる。
俺をボンゴレのボスにしたくないのなら、俺を消してしまえば、殺してしまえばいい。そうするのがマフィアの考え方で、そうやって誰かに殺されないようにするために、俺はこの部屋に大切にしまわれて、一四年間ずっと囚われて生きてきた。
「君が……」
この場所にずっといれば、俺の意思とは関係なく、いつかボンゴレのボスにさせられてしまう。それは嫌だ。ボスにならないためには、いなくなってしまわないとならないけど、そのために死ぬのも絶対に嫌だ。
「お、俺を連れていってください」
誰かの用意した道の上を歩かされるんじゃなくて、誰かに決められてしまうんじゃなくて、俺は俺の意思で動きたい。
「あなたは俺が、ボンゴレを継がなければいいんでしょ? それなら殺す必要はないですよね」
ベッドに乗ったままだった足を組んで、顔には笑みを浮かべる。余裕が感じられるように、相手に下に見られないように。
「俺はここを出たい。あなたは俺にボンゴレを継いでほしくない。それならこの提案は、お互いに利害の一致になると思うんです」
この人はきっと強い。その強い人を俺が、俺の方が利用してやるんだ。
「あなたに俺を、守らせてあげます」
声は少し、震えてしまっていたかもしれない。でも怯えなんか見せないように、まるで王様のような態度を演じながら、目の前の男に言いきってやった。
気づけば腕を掴まれた力が弱くなっていたから、払うように抜き取って、少年は不遜な態度で男を見上げる。
「ふっ……」
驚くか、ポカンと間抜け顔をするのではと期待したのに、男の態度は少年の想像するものとはまるで違っていた。
俯いて少年から顔をそらせて、どうやら笑っているようだ。
肩を少しだけ震わせて、綺麗と見惚れていた顔は、感情なんてちっとも読ませない無表情を決め込んでいたのが歪んでいる。目じりに少し皺ができているのが見えて、年齢が感じられるようになった。この綺麗な人は、笑うと少しだけ老けて見える。
こちらは真剣だったというのに、こんな態度を取られるのはあまりにも心外だ。
怒りのままに目の前の足を蹴ろうとしたら、さすがに避けられてしまったけど、それで漸く男は顔をあげた。
「いいね」
にこっと微笑むような、でも笑うと取るには随分と物騒な顔を向けられて、思わずぶるりと震えてしまった。
「泣きそうなくせに強がって、おもしろい。いいよ……僕が君をボンゴレから連れ出してあげる」
先ほど俺の腕を掴んでいた手が、今度は意思を確認するように、まるで誘っているように伸びて来た。
指先の硬い、皮膚の荒れた手だ。長い指、てのひらもあちこちがでこぼこして、皮がむけているのが見て取れる。
これは、俺みたいにぬくぬくと囲われて生きてるんじゃない、自分で自分の道を切り開いている人の手なんだ。
目の前の手を見つめて、少年はごくりと息を飲む。それから、自由を引き寄せるように、その手をしっかりと掴んだ。