ラビリンス
差し出した掌に重ねるものが無くとも、しんとした湖は波紋を広げることなくりんとした大樹は木をざわめかせることはなく、ほんのり頬に紅を差して、慌てる彼女の姿を網膜に焼き付けて瞳を閉じるのが、言葉と共に脳味噌を駆け巡った相変わらず現実に偏食した考えのすべてだった。
ああ、
頭の回転が速いというのは有益だと、取り敢えず今だけ肯定してジェイドは開いてる方の手で眼鏡を整える。
ひとつ、心を落ち着ける溜め息。
「ナタリア」
「はい?」
これ、
「何ですか」
「何ですか、って何ですの?」
持ち上げた左手の、彼女の右手と手袋越しに触れ合った部分がぴりぴりと痺れるような感覚。
ぱち、ぱち。
瞬きをする度に、瞳の中に填まった宝石が零れ堕ちるのかと、思うのだ。
もし、もしそうなってしまったらこの手はそれを受け止めることが出来るのだろうかと、考えるのだ。
ああ、
勿論、脳味噌以外の部分で。
「ジェイドが、おっしゃったのでしょう?」
怖いなら手を繋いでも良い、と
「―…そうでしたっけ」
「そうですわ?」
ビデオテープが刷りきれて、ぷっつり切れてしまったと言い訳をしたかった。
握った掌が離れる意志を見せないことに、苛々した、同時に力をほんの少し、込めた。
「さあ、参りましょう?」
「何処へですか?」
「何を馬鹿なことをおっしゃってますの」
゛ルーク゛達の所ですわ
瞳を閉じた、2秒間。
「待っていてくれますかねぇ?」
「まあ、貴方じゃあるまいしそんなことしませんわ」
「どうでしょうねぇ?何分貴族のおぼっちゃまですから、我慢の足りないことを言い出し始めるんじゃないですか?」
「―…貴方って方は、一体何処でそんなにねじ曲がってしまいましたの?」
もういいですわ、
指先、外れて遠退いてゆく感覚が振動する。
「ナタリア」
「先に行きますわ」
「そちらは逆ですよ」
ほら、
ほんのり頬に紅を差して、慌てる彼女の姿を網膜に焼き付けて瞳を閉じ た
ラビリンス