花葬
花 葬 -1-
『私は少し、お前の行く末が心配だよ。』
……そういっていたのは、誰だったっけ?
「あ~あ」
満月の仄かな灯りの下、右手を掲げてしげしげと眺めてため息。
目に見えるのは夜目にも鮮やかな朱色。
夜風にのって微かに漂ってくるのは錆びた匂い。
「これって落としにくいンだよね」
ふるふると右手を振って落とすけど、もうだいぶ時間が経ったから固まってしまっている。
「さて、どうしようかな。」
数時間前に俺はある任務で人をこの手で殺めた。
ぬるりとしたあの感触にはもう慣れたけど。
固まってしまった朱色が取れないのには、あまり慣れてない。
キモチ悪い。
それが本音。
人を殺めるのに躊躇はいらない。
それが【任務】という名の暗黙の了解で。
けれど、
キモチ悪いんだよね。
今まで生温い液体だったもの。
それが、自己主張しているみたいで。
思いもしないことを、
勝手に思いそうじゃないか?
ざわざわ。
空気が、変わった。
俺はとうにそれに気がついていた。
それが【殺気】を孕んでいるのは承知の上。
すっ…と、俺は動物の顔を形どった【仮面】を被る。
暗部はその素性、その素顔を隠す。
その下に薄く笑みを浮かべて、俺はそれが来るのを息を潜めて待つ。
ぞくぞくとした死線。
その、感じ。
俺は好きだよ。
この固まった朱を、その朱で洗い流してくれよ?
…………なぁ?