土銀スペシャル始めました
店に入ると、俺と同じ隊服に身を包んだ見慣れた背中があったので了承をとることもなく、彼の向かいの席へと座る。
「どうしたんですかィ?土方さん、定食屋来て何も頼んでないじゃねぇですか。いつもみたいに犬のエサ頼みゃあいいのに。」
「何勝手に座ってんだテメー!!しかも犬のエサっていうんじゃねー!!ったく・・・ちょっと考え事してたんだよ。」
土方さんはため息をついて胸ポケットからタバコを出す。
「へぇ、鬼の副長と呼ばれる土方さんが悩みごととはねぇ。で、何で悩んでんですかィ?」
土方さんはふう、と煙を吐き出してから答える。
「最近銀時のやつ何考えてるのか分かんねーんだよな。こないだだって出かけようって誘ったらOKしやがったくせにどこか上の空だったし。いつもなら手ぐらいは嫌々言いながらも繋いだりするのにさ。」
うわぁ、ノロケかよ。こういう時の土方さんはかなり面倒くさいんだよなぁ。
「ダンナも何か考え事してたんですよ、きっと。」
俺は適当にそう答えると、いつの間にか運ばれてきていた水を一口飲む。
「大体そんなに心配なら、旦那の好きなこととかいつもすることとかやってみて旦那の気持ちになって考えてみたりしたらいいんじゃねぇんですかィ?」
「なるほど、その手があったか!!」
土方さんにしては大きな声で叫ぶと、定員に何かをコソコソと注文をする。その店員は困惑しながら厨房へ向かうと、注文されたのであろうものを持ってくる。
それはご飯の上に小豆が大量にのったこの世のものとは思えない食べ物だった。
「何ですかそれ、犬のエサ2ですかィ?」
「ちげーよ。あいつがよく食ってる宇治金時丼ってやつだ。これ食ったらなんか分かるかもしんねぇ。」
そう言って土方さんは勢いよくそれを一口食べると、すぐさま自分の水を一気に飲み干した。
「なんだこれは、小豆食ってんのか飯食ってんのかまるで分かりゃしねぇ・・・」
そんな土方さんに半ば呆れながらも聞いてみる。
「で、何か分かったんですかィ?」
「いや、さっぱり分からん。むしろこれを食ったことでますます分からなくなった。
そりゃそうだろう、と土方さんを見ていると今度は懐からマヨネーズを取り出してそれを宇治金時丼の上にかけ始める。
「また今度は何やってんですかィ?」
そう聞くと、土方さんはどこか誇らしげにしながら俺の疑問に答える。
「いいか総悟、あいつはこれが好きだ。そして俺はマヨが好き。なら、この2つが合体すればきっと何にも負けねえ最高の料理、土銀スペシャルになるはずだ。まさしく愛の力ってやつなんだよ。」
「あー・・・そうですかィ。まああんたがそう言うなら俺は止めやしやせんけどね。」
土方さんは小豆が見えなくなるまでマヨネーズをかけると、満足そうにしてそれを一口食べた。
そして箸を咥えたまま動きが止まったままの土方さんに声をかける。
まあ答えは大体見当がついていたけれど。
「どうでさぁ?愛の土銀スペシャル。あれ、箸が止まってるみたいですけど、もしかしてマズイんですかィ?愛の土銀スペシャルなのに?」
そう聞くと、土方さんははっとしたように急いで土銀スペシャルを口の中へとかきこむ。
「そ、そんなわけねぇに決まってんだろ?やっば、超美味すぎるんですけど!!あと100杯はいけるね!!」
そして土方さんは最後まで土銀スペシャルを平らげた。
しかし、その後ですぐに倒れ近くの病院へ運ばれた。
「土方さんって結構バカだったんだなぁ。いや、前よりバカさが増しただけか。それにしても・・・」
あの鬼の副長をここまで変えてしまうとは旦那、いや恋というものは本当に恐ろしいもんだなぁ、と沖田は感心(呆れ)したのであった。
作品名:土銀スペシャル始めました 作家名:にょにょ