銀色の花
それは何気ない言葉のつもりだった。
とはいえ本心であったのは事実だが、銀時はあまり嬉しそうな顔をしなかった。
「土方君が思うほど、綺麗なもんじゃないよ。」
そう言った銀時の顔は悲しそうだった。
きっと何か過去の天人との戦の記憶からその言葉は出たのだろう。
いつもこいつの過去に触れるような話題が出る時はいつもさりげなく話題を変えていた。
しかし、この日は違った。
付き合い始めてそれなりに時間が経っていたからか、あるいはこいつにとって俺の存在は少し大きいものなんじゃないのかという自信からだったのかもしれない。
とにかく自分でも気付かないうちに話題変えることもなく、そのまま問い返していた。
「なんで、そう思うんだ？」
そう聞き返してから少しだけ後悔した。
もし俺が銀時にとって大きな存在であったとしても、聞いていい理由にはならないと気付いたから。
しかし、銀時は気にした風もなく、どこか独り言のように答えた。
「この髪はな。こうやって普通にしてりゃあ綺麗かもしんねぇ。でもな、斬りあいでもなんでもやってりゃあ段々敵の血や味方の血で赤く染まって、元の銀色が塗りつぶされる。それってさぁ自分まで赤く染まっているみたいで、自分が自分じゃなくなっちまうような、そんな気がするんだ。」
そう言って銀時は自嘲的に笑った。
俺は少し勘違いしていたのかもしれない。
白夜叉と呼ばれ、恐れられていたようなこいつは出逢ってみたらプー太郎でだらしなくて餓鬼で、昔の面影を感じることなんてなかった。
だからかもしれない。
こんな風に心の奥の暗い部分まで見たことがなかったから、ただのマダオ程度にしか思っていなかった。
でもそれと同じくらい俺は昔の銀時の片鱗を少し見ていたのかもしれない。
今までたくさん銀時が刀を振るう姿を見てきた。
間違ったことを正すため、大切な人を守るため。
いろんな理由で刀を振るっている銀時を見てきた。
だからこそ、きっと俺がこう言ってもきっと許されるはずだ。同情でも知ったかぶりでもない、純粋な土方十四郎の言葉として。
「大丈夫だ。」
銀時は驚いたように俺を見た。
赤い瞳は俺を探るように見つめていたが、俺はたじろぐことなくその瞳を見つめ返した。
「俺が知っている坂田銀時は全部じゃねぇけど、それでも俺はお前がお前じゃなくなるなんてことは絶対にないと断言できる。少なくとも俺が見てきた限り、お前は血に狂ったりなんてしてないし、お前はちゃんと自分を持ってる。ちゃんと芯を持ってる。」
銀時はそれを鼻で笑う。
「そんなのわかんねーよ。今は狂ってないかもしれねぇ。だがこれからも狂わないってことはないんだぜ？」
「いいや、狂わないね。」
俺はもう少しで唇が触れそうな距離まで銀時の顔に自分の顔を近づける。
「もしお前が狂いそうになっても俺がそれを止めてやるよ。なんてったって、鬼の副長であり、お前の頼りがいのある恋人だからな。」
銀時は拍子抜けしたようにポカーンと口を開けていたが、すぐにプ、と吹き出した。
「おま、それくっせー！！いつの時代の王子様ですか？もう超笑えるんですけど！！」
ギャハハハ、と笑い転げる銀時を見て俺は無意識に安堵のため息をついた。
「分かったなら出かけるぞ。らしくもねぇ話してたら腹減ってきちまった。」
そう言って背を向けると、銀時に腕を掴まれる。
「土方君にお願いがあるんだけど。」
「あ？パフェは止めとけよ。医者に止められてるんだから。」
そうじゃなくて、と銀時はおかしそうにクスクスと微笑む。
「もし、俺を止めるときは優しくキスしてほしいなってね。恋人なんだし、いいだろ？」
俺はフ、と微笑んだ。
「お前が望むなら、いつでもしてやるけどな。」
俺はそう言うと、そっと銀時の唇に口付けた。
きっとこいつはこれからも変わらない。
いや、変えさせない。
この銀色は俺がいる限り曇らせない。
それは俺の願いで決意だ。
だから、ずっと綺麗なままの花でいてほしい。
たった一輪の銀色の花