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データよりも甘いキスを

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せっかく部室で2人きりだというのに柳さんはずっと机に向かったまま、俺のことを気にもとめていない。
「柳さ〜ん、早く帰りましょうよ〜。」
「少し待て、あともう少しでデータがまとまる。」
こちらに目もくれずペンを走らせながらそう言う柳さんに俺はむす、とふくれる。
別にイチャイチャしたいわけじゃない。
それに柳さんはそういうことするような人じゃないのも分かってる。
でも2人でいる時は俺のことだけを見ていてほしいと思う。
なのに柳さんが今見つめているのはノートでしかも俺以外の選手のデータだ。
俺がずっと不満そうなオーラを出しているのに気付いたのか、柳さんはしかたがないとでもいうように、柳さんの隣に置いてある椅子をポンポンと叩いた。
渋々といった感じでその椅子に座ると、今度は頭を引き寄せられ、ポンポンと軽く叩かれた。
「あと少しだけ我慢していてくれ。」
そう言うと、柳さんは再びデータの整理を始めた。
なんだか子供扱いされたみたいで気に入らない。
1つ年が離れているとはいえ、恋人なのにいつも柳さんは俺を子供扱いする。
こうなったら何がなんでも気を引いてやろう、と柳さんの膝の上に乗り、ぎゅうっと抱きついた。
これでどうだ、と柳さんを見上げると、何事もなかったように黙々とペンを走らせている。
ムカッとした俺は今度は柳さんの頬にキスをした。
するとピタ、と柳さんの手の動きが止まった。
成功したか?と思っていると、柳さんははぁ、とため息をついた。
「どうせならこっちの方にキスしてくれ。」
そう言うと柳さんは俺の唇にキスをした。
唇が離れると、俺は口をパクパクさせて柳さんを見たが、柳さんはどこ吹く風でまたペンを走らせている。
「・・・負けたッス。もう少し我慢して待ちますよ。」
「分かってくれたならいい。」
でも、と俺は柳さんの手を掴む。
「どうせなら俺のデータ書いてくれればいいのに。」
そう拗ねたように言うと、柳さんはクス、と微笑んだ。
「お前のデータは全部ここに入っているよ。」
そう言って柳さんは自分の頭を指差した。
「でも、いつか忘れちゃったりとかしません?」
不安そうに聞くと、柳さんは俺の顔を間近で覗き込んで、
「忘れないよ。本当に好きな子のことなんだから。」
そう言ってもう一度俺の唇にキスをした。