黄昏の家路へ
リゼンブールで平和に過ごしていたあの頃。
一緒に遊んでいた子達が帰って行ってしまっても、暗くなってきて不安になったアルフォンスが先に帰ってしまっても、
一人になってしまっても、いつまでも。
空の水色に鮮やかなオレンジが差して、
雲が薄桃色に染まって、
やがて薄い紫が東からだんだん迫ってきて、
濃い群青に落ちるまで――。
お腹の辺りがきゅーっとなって何故だか少し淋しい気持ちになるのも含めて、そんな黄昏時がエドワードは好きだった。
丘の上の一番星を目指しながらうちへ向かうと、薄暗い中にぼんやりと家の明かりが浮かんでいて、戸口には母が自分の帰りを待ってくれていた。
それを見つけるといつも自分は母の元へ飛び込んでいって「ただいま!」と言うのだ。
すると母はにっこり笑って「おかえりエド」と言ってくれる。
それがいつもとても嬉しかった。
そのあと母は「でももう少し早く帰って来なさい。心配するでしょう」と少し悲しげな顔をして言うので、オレもごめんと素直に謝るのだ。
そして「でも空がすっごく綺麗だったんだ!今度母さんも一緒に見ようよ」と言うと、また明るい顔になって「そうね、今度ね。アルも一緒に見ましょうね」と言ってくれた。
そのささやかな願いが叶えられることはなかったのだけれど―――
リゼンブールを離れてしまった今もそれは自分にとって暖かな懐かしい思い出だった。
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「なーんてとんだ感傷だなオレ」とエドワードは暮れてゆく日を見ながら一人ごちた。
今ここはセントラルで自分は夕飯の買い物帰りだった。
ふと小高い坂の上から夕陽が落ちるのが目に入り、気づけば立ち止まって見入ってしまっていたのだが。
さて暗くなる前にうちに帰ろう。今は黒髪のあの男の家へ。
もちろんあいつは忙しくてまだ帰ってなどいないだろうから、今度は自分がおかえりと言って迎えてやるのだ。
いつか晴れた日にあいつが休みの時でもあったら言ってみようか。「夕陽がすっげぇ綺麗だから一緒に見に行こうぜ」って。
いつも自分から出かけようなどと言わないから、きっとあいつは少しびっくりして、でもすぐに嬉しそうな優しい顔をして頷くだろう。
想像しただけでなんだか楽しい気分になりながら、エドワードは家路へと急いだのだった。