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Radiant Days~the real story

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「はい、はい、は~い!燐先生しつもーん!!」


祓魔塾――その一室で授業を行っていた奥村燐は生徒の呼びかけに振り返った。
左手におさまっていた教科書がその振動ではらりと揺れる。
手に持っていたチョークを置き、先ほどの声の主を見据える。

「――どうした、何かわかんねーとこでもあったか?」

肩まで真っすぐ伸びた黒髪を二つに結った少女が嬉々として燐を見つめていた。
その頬が赤く染まっている理由が分からず、内心首を傾げる。
燐が受け持つのは一年生から三年まで。
すべての学年の生徒たちに剣技とその基礎を教えている。

基本的にこうして黒板を前にして教えることは剣についてというよりも
祓魔師としての基礎的な戦い方だったり、悪魔についての知識になってくる。

もちろん、実技として教える前に心構えなど教えなけらばならないことも多々ある。
ゆえに、講義の時間もどうしても必要となるのだ。

このクラスの生徒たちは熱心に講義を受ける子たちばかりだが、如何せんその熱意が脱線する節がある。
手を上げる彼女の好奇心一杯の眼差しに燐は内心溜息をついた。

(--また例の質問ってやつか……)

痛むこめかみに手を当て、一つ息を吐く。
ここで誤魔化すことも出来るが、そのあとの休み時間中の質問攻めは御免だ。
ここは先手を打つしかないかと口を開く。

「お~、何だ。いってみろ。ただし、今は授業中だ。俺のプライベートについては却下だ」

「「え~~~!!」」


「先生のケチ!」


「ずりぃ~~~!」


「生徒との交流を拒むんですか~!」


「俺達もっと先生と仲良くなりたいのに!」


言い放った瞬間上がったブーイングは一つではない。
女子だけでなく、男子からも抗議の声が上がるのはどういうことなのだろうか。
その事実にさらに頭痛がしてくるのを感じ、燐は深々と肩を落とし、頭を抱えた。

――こういう時だけ、やたらと団結しやがって、お前たちは!

喉まで出かかっている言葉を必死で飲みこむ。
子供の言うことにいちいち反応していてはこちらの身がもたない。
何より、祓魔師を目指す彼らは一筋縄ではいかない。

『耳を傾けることも大切だけど、流す時には流さないと――』

耳奥で弟がいつかの日語っていた助言が蘇る。
気を取り直して授業を再開しようとした時だった。

――聞こえてきたのは、終了の合図。

燐はぎくりと身体を揺らした。
なんというタイミングで鳴ってくれたのか――!

ゆっくりと教室を見渡せば、妙に笑顔な生徒の視線が痛いほど突き刺さってくる。

そして、先ほど質問だと挙手した女生徒が再び手を上げ、にっこりとほほ笑む。

「燐せんせー?授業中はダメなんですよね~?でも、今ので終わりましたよね~~?」


わざわざ確認するのは、絶対に逃がさないという意思表示なのだろう。
生徒たち全員一致の答えに燐は諦めの息をはいた。

どうやら今日は逃げられそうもない。



「あ~~、わかったよ……。分かったから、んなに見んな。--で、何が聞きたいんだ?」


そう問いかけたのを燐はすぐに後悔することになる。


「じゃあ、遠慮なく!質問――!燐先生は、恋人はいますか~~!」

「――――は?」


「は?じゃないです、先生!!」


先ほどとは違った栗色のショートカットの少女が挙手しながら声を上げる。
その声の強さに燐はたじろいだ。

今し方聞こえた言葉は空耳だろうかと引き攣る顔を押しとどめ、確認のために問いかける。

「あ~~~、わりぃ。先生、耳遠くなったのかな?
――今、すんげぇ見当違いな内容が聞こえてきた気がするんだが」

空笑いしながら教室を見渡す。
返ってきたのは悲鳴交じりのブーイングである。

さっきまで大人しく席についていた生徒たちは一斉に立ち上がると教壇に立つ燐の元に駆け寄り騒ぎ出す。
燐はそんな生徒たちを呆けたまま見つめるしかない。

その間も生徒たちの質問攻めはヒートアップしてゆく。


「何ボケてるんですか、燐せんせー!!」


「もお~、そう言うところも可愛いですけど!!」


「そうそう、燐先生って案外抜けてるとこあるし。この前もプリント間違えてたし」


「でも、剣の腕と料理の腕は抜群だって杜山先生言ってたぜ~?」


「え~!?じゃあ、やっぱり、燐せんせーの相手ってしえみちゃんなの!?」


「お前、特別講師だけどよ、名前は失礼だろ」


「違うわよ!!杜山せんせーがいいっていったもん!じゃなくて!!――」


この騒ぎの首謀者である女生徒が拳を握り、燐に詰めよる。
怒りのためかそれとも羞恥のためか
(燐には判断できないが)
顔を真っ赤に染めた彼女が叫ぶ。


「――燐先生!!――――キスマークの相手、やっぱり杜山先生なんですか!?」



「―――――は?」


聞こえてきた言葉に今度こそ燐の頭はショートした。
思考が真っ白に停止する。
だが、持前の切り替えの早さにすぐに持ち直す。
――が、背中を冷や汗が流れ落ちる。


(――ちょっと待て。今、ものすごいこと言わなかったか、こいつ……?)



額に手を当て、何とか落ち着こうとする燐をさらに突き落したのは、この中で一番の成績を持つ生徒だった。
長い黒髪を一つに縛った髪を揺らし、メガネの奥から見える淡い琥珀色の瞳をついと細め呟く。


「この前の実技の時、先生、首にキスマーク付けてましたよね?」


彼女の発言と同時に静寂が教室内を満たす。

誰も身じろぎすることなく見つめる先は、ただ一人、講師である燐である。
唐突な質問に燐は青い瞳を見開いたまま固まっていた。

――だが。



「―――――ッな!!」


すぐに我に返ると思わず首元に手を当てていた。
一瞬のうちに燐の顔が熟れた林檎のように真っ赤に染まる。

その姿に生徒たちから悲鳴と歓声が同時に上がった。


「いや~~~!!やっぱ、噂は本当だったのね!!」


「先生!!本当に杜山先生と付き合ってるんですか!?」


あちこちから上がる声に燐はもはや答えることも出来ない。
むしろ、さらに燐の頬が赤く染まっていく。

それがさらに生徒たちの言動を悪化させていくのに燐は気付かない。


「そんな~~!!あたし、燐先生狙ってたのに!!」


「お前何言ってんだよ!?狙うって、燐先生をお前なんかに渡せるか!」


「はあ~~!?あんたこそ、何様のつもりよ!!燐せんせーは皆のものなのよ!!」


「てか、お前らの発言どっちもおかしいだろ!!」


「いや~~ん!!燐先生には穢れてほしくなかったのに!」


「おい!!杜山先生が穢したみたいな言い方すんなよ!」


「やだやだ~!!燐先生、本当なんですか!?」


「先生、答えて下さい!!」


「「「「燐先生!!」」」


突き刺さるほどの視線にもはや耐えきれず、教科書と名簿をかき集めると燐は教室を飛び出した。

――ただ一言だけを残して。


「しえみじゃねーよ!!」




作品名:Radiant Days~the real story 作家名:sumire