【Livly】誰も知らない物語
好きになってくれたら
ルチルは、リーダーのねぐらまで歩いていった。
「リーダー」
呼ぶ。
しかし、彼の拙い発音では「るぃぃだぁぁ」と、まるで違う人物を呼んでいるようだった。
特に用事があるわけではないが、冷たくされてもルチルはリーダーによく懐いていた。
「リーダー、ぼくねぇ、もっとチームの役に立つことしたいんだあ」
リーダーは返事をしない。
まるで彼がいないようにふるまい、むしゃむしゃともがき暴れるクロムシをかじり続ける。時折首輪をぺっぺと吐きながら。
「だって、ほら、ぼく黄色いけど、メンバーでしょ?」
メンバーが、「めんぶぁぁ」と聞こえた。
リーダーは尚、無視した。
「ぼくに何かできることあるかなあ。ぼく、ばかだけど・・・」
「クロムシ買って来い」
ルチルは目を伏せた。申し訳なさそうに言った。
それが余計うっとうしがられることが何故わからないのか。
「ご、ごめんなさい、ぼく、パスポート持ってない・・・」
リーダーは鋭い瞳でルチルをとらえた。
普通のリヴリーだったら怯えてしまうであろうその殺意に、ルチルは物怖じをしない。ただ不思議そうに首を傾げるだけだ。
ただルチルは考えていた。
もっといっぱい言葉を知ってたらと思った。そうすれば、きっと、もっと言いたいことがいえるのに。
「帰れ。」
リーダーの声を無視して、ルチルは慌てて思いついたように尋ねる。
「ねぇ、リーダー、ぼくってチームにいていいのかな?」
リーダーは、返事をしない。それが、答えだ
でもルチルは、心のどこかでは良い返事を期待していた。
「ぼくねえ、みんなにすきになってほしいんだあ」
ぼくがみんなを好きなように。みんなにも愛してほしかった。笑ってくれるけど、もっと、温かい笑みがほしかった。優しい言葉がほしかった。一緒に買出しについてきてほしかった。
彼はもちろん、それを伝える言葉が見つからない。うまく伝えられない。
愛されたことがないから、どう愛して欲しいかわからないのだ。
「みんなすきになってくれれば、しあわせで、だから・・・」
リーダーは退屈そうにあくびをした。それはもう少し年長者から見たらわざとらしく思えたかもしれないが、ルチルは睡眠の邪魔をしたと申し訳ない気分にしかならなかった。
それでもルチルは、これだけは聞きたかった。
「リーダーはぼくのこと、すきかな?」
すきだ、と。
言ってほしかった。
だが、真っ黒なプリミティブトビネは、もう一度「帰れ」を繰り返しただけだった。
チームのみんなに命令するよりも、馬鹿と言ったときよりも、ずっとずっと、冷酷に。
その言葉の棘は、やっと鈍い彼にも見えた。
「ばいばーい、リーダー!」
ルチルはどんなに悲しくても、泣かなかった。
ずっとずっと笑ってたら
泣き方を忘れてしまったのだ。
色も形も変わらない容姿に、欠如した感情。
時々ルチルは、自分がリヴリーなのか、それよりも生き物なのか、と疑問に思うのだ。
しかし、もし生き物ですらなかったら、自分はなんなのだろう。
存在している意味が、あるのだろうか。
その答えは誰も教えてくれなかったし、ルチル自身も持っていなかった。
作品名:【Livly】誰も知らない物語 作家名:夕暮本舗