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つわものどもが…■07

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「鳥になりてぇなぁ」
高く澄んだ空を眺めながら政宗が溢すので、
「なんだ、現実逃避か?愚かしい」
やや呆れを含んで返してやる。
「べ、別にそういう訳じゃねぇよ…そりゃ提出課題、幾つか抱えてっけど」
途端に、窓辺に寄せた椅子に座っていた政宗が拗ねたように唇を尖らせて此方を振り向いた。
我は大振りのクリップで纏めたレポートを片手に政宗の傍らに立った。
元来この部屋の責任者である教授は午前の講義を終えた後、所用といって外出した。故に今は我と政宗の二人だけがこの研究室に存在する。
「無駄口を叩いてばかりで、手が留守ぞ」
我は手にしていたレポートの束で戯れに政宗の頭を叩いた。
「Hey,アンタさっきのおれの言葉聞いてたか?提出課題もあるし、暇じゃねぇんだけど?」
きゅるきゅる、とキャスターの音をさせ、横着にも椅子に座ったまま政宗は窓辺から移動して我が指定したデスクに戻った。
「何でアンタのレジュメの清書なんか…」
「ほぅ?」
苦情を言い募る政宗に、双眸を細め、口の端をわずか持ち上げて見せる。
我の様子から何ぞ読みとったのか、政宗が小さく顎を引いた。
ではお望み通りにそなたの喜ばざる言葉を与えてやろう。
「何時ぞや、呼びもせぬ保護者を伴ってテーマパークを徘徊する羽目になったは誰のお陰か」
思った通り、政宗は苦虫を噛んだような得も言われぬ表情で我から目を逸らせた。
「まさかこの歳で保護者同伴とは…」
「お、おれだって、あんなつもりは」
それは既に承知している。
「しかし、あまりに過保護ではないか?」
「あれは小十郎が勝手に…っ」
言い募るものの、恐らく政宗も思っている事なのだろう。そこから言葉が繋がらない。
それでも得心できないのか、未だ眉宇を寄せたままの政宗に、
「そら、さっさと手を動かさぬか」
追加のレポートを渡してやった。
小さく「Oops!」と呟いていたが聞こえなかった事にする。
ややすると、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえてきた。

テキストエディタの開かれたモニター画面に向いた怜悧な横顔を盗み見るように視線を遣る。
手元の資料とモニターを交互に見遣る仕種で鳶色の髪が揺れ、合間から白皙の肌が覗く。





──未だ我の脳裏に鮮明に残る、情景。

あれは何時の事だったか、誰と死合うていたのか。
或いは、我との戦であったやもしれぬ。


数多の捨て駒を切伏せながら突き進むその鮮烈なまでの蒼。
刀身を迸る鳴る神の煌めき。
さながら隻眼の竜が如きその姿。

戦場を舞うように駆ける竜……
その背に翼はなくとも、縦横無尽に跳ねる様は今にも飛びそうであった。





「元就さん、」
あの頃より幾分か高くなった声音に呼び戻される。
「何ぞ」
「この…ここ、表記あってるか?誤字じゃなく?」
提示された個所を見遣り「このままで良い」と答えてやると「All right.」と素直に言って端末に向き直る。
我は政宗のその鳶色の癖のある髪を眺め、序でキーボードの上を軽やかに舞う手指を追った。
かつて煌めく刃を振るっていたであろうソレは、今は細くしなやかで傷のひとつもない。
…否、かすかに歪に見える。今生でも武道を嗜むか。






あれは何時の事だったか、誰と死合うていたのか。

だらりと体の脇に下ろされた刀身。
足元に広がるのは敵味方の別なく横たわる骸。
無様に折れ、地に落ちた旗指し物。
血と泥で元の色など分からなくなった陣羽織もそのままに。
無防備に仰け反らせた首を晒し、表情の見えない顔は藍に染まる空を見上げていた。


その背に、翼は……





「翼があろうとなかろうと、誰もそなたを地に繋ぎとめておく事など出来ん」
「…pardon?」
我の独り言に、政宗がきょとんとした容貌を向けてくる。
「何故…」
ひとつきりの眸に我が映り込んでいるのを確かめるように見詰め、
「そなたは鳥に憧憬を抱くのだ」
「What’s up?やけに拘るな」
微苦笑を浮かべて肩を竦めて見せる政宗に、我は無言で先を促した。
「Ah……そうだなぁ、一言で表すなら、なんとなく?としか言い様がねぇんだけど……」
そこまで言って、政宗は思案するように口元を手で覆った。
漠然とした気持ちを表す言葉を探しているのだろう。
ややして、
「空を飛べるなら、俺が手を伸ばしただけじゃ届かない何かに届くかもしれんぇ、って」
政宗は虚空を仰ぐように見遣って、口元に当てていた手をゆるりと持ち上げた。
その手が掴む物は、今ここにない。否、その手が掴もうとしていた物は目に見えるものでも、況してや人の手で容易に掴めるものでもなかった。今の世も、あの頃であっても。
それでも、そなたは諦めず懸命に手を伸ばすのだな。

ならば……

「飛びたければ、何時でも飛んでみせよ」
「…元就、さん?」
「したが、羽を休める事も忘れるでない」
「What’s this all about?(どういう事?)」
戯言と笑うでもなく、政宗はひとつきりの眼差しに真摯な光を乗せて我を見上げてきた。
「空を舞う鳥だとて、常に飛び続けていられる訳ではない」
知らず、口の端を綻ばせて言って、我はシャツの胸ポケットに収めていたカードケースを取り出した。
「何処ぞで羽を休めねばらなぬであろうが」
「Hmm,is that so.(あぁ、なるほど)」
身分証と共に収めてあるプリペイドカードを政宗の眼前に差し出す。
「取り敢えずは、一息入れるとしよう」
「Wow!…驕り?」
カードを受け取りながら童(わらし)が悪戯を思い付いたような愛らしい顔を作る政宗に、鷹揚に頷いてやる。
学内のカフェテリアで使用可能なプリペイドカードだ。勿論、残高は十分にある。
「好きなものを買ってくるといい」
言ってやれば「So cool!」と笑んだ。そして、
「アンタは?」
椅子の背にかけてあった上着に腕を通しながら聞いてきた。
「我は構わぬ。その代わり、戻ったら温かい茶を所望する」
この研究室の責任者は教授だが、実質的な主は我だ。好みの茶葉を常時用意してある。そして、政宗の手ずから淹れられる茶が大層美味い事も知っている。
「Okay、じゃあちょっと行ってくる」
軽やかな足取りで部屋を後にする政宗を見送って、我はもう一度窓の外に視線を遣った。
そこに鳥の姿は既になく、ただただ蒼空が広がるばかりだ。







疲れたなら、いくらでも休むがよい。





───我のもとで。






憂いあらば、我が断ち切ってやろうほどに。






「先の世も、今の世も…な」





07:繰り返し再生される最期の言葉

(お題提供:エソラゴト様 http://eee.jakou.com/)

** あとがき **
誰が討たれて誰が頂きを得たかは…ご想像にお任せする丸投げ仕様です、すみません。
最後の言葉というと、やっぱりあの台詞が印象的だったので。
元就様視点で書くのは面白いけど難しいです… 惨敗。
** 2011.11.22 **
作品名:つわものどもが…■07 作家名:久我直樹