ルームメイト2
※「ルームメイト」と同じ設定です。
「起きろ、荒木」
「んー、あと5分……」
「ベタな寝言は良いから起きんか。今日はチャリティイベントの日だろ」
「あっヤベそうだった!」
がばっ、と布団を跳ね飛ばして起きる荒木。多分これは元々起きてたな。
「全く、目が覚めてるならいつまでもぐだぐだ転がってないでさっさと起きれば良いものを……」
「えー。そしたら織田、起こしに来てくれないじゃん」
「当たり前だ。俺はお前専用の目覚ましじゃない」
「そうだな、マコの目覚ましでもあるもんな」
「そういう意味じゃない!」
わざと外したことを言ってるのは分かる。分かるがどうしてもツッコみたくなるのは性分だ。
それから、こういうコミュニケーションが荒木なりの甘えなのも分かってきた。
世代別とは言え『青』を纏いエースナンバーを背負う荒木の、双肩に掛かるストレスなど想像する術もない。
荒木がここを肩の力を抜ける場所だと思ってくれているのなら、許せる範囲で甘やかしてやるのが俺の役割だろう、と割り切っている。
「まぁいい、さっさと顔を洗って支度しろ。子供たちが待ってるだろ」
「おうっ! 朝メシは?」
「作っておいた。兵藤はもう食って出掛けたぞ。……そうだ、昼食は向こうで摂るんだったな?」
少し冷めた味噌汁に再び火を入れてカウンター越しに予定を訊ねる。
「あぁ、なんかテント村みたいなのが立つらしい。チビどもと食うとか言ってたな」
「食事の時間もファンサービスの一環か。プロは大変だな」
「織田もヒトゴトじゃねーだろ。お前だってプロになれば新人の仕事でやるんだぜ?」
「それは構わないが何故俺もお前のトコに世話になる予定なんだ。声が掛かるとは限らない」
「えー。俺が鷹匠サンに推されたみたいに、俺がお前を推せばいんじゃね?」
「無茶言うな。大体、俺を引っ張ったって、1部に昇格したらお前は居なくなるだろ」
反射的に言葉を返してから口を抑える。
少しつっけんどんな言い方になった、と後悔したが、意外にも荒木は笑っていた。
「それってさ、織田」
「な、何だ」
「俺の居ないチームじゃ入る気がしねぇってこと?」
「……自意識過剰も大概にしろ、そんな基準でチームを選んでたまるか。俺は俺を必要としてくれる場所で精一杯頑張るだけだ」
コトン、と椀を置く。
湯気を立てる味噌汁は、朝に弱い荒木の目を覚ますために朝から作るようになったものだ。
荒木が乱入して生活のパターンがどれほど変わったか、枚挙にいとまがない、と思う。
それでもコイツを受け入れているのが、俺と兵藤なりの「甘やかし」なのだろう。
「じゃあ、俺がお前を必要としてるなら?」
「お前だけが必要としたってどうにもならないだろう」
「ん、言い方変えるか。チームは守備でも頼りになる中盤を欲しがってて、俺はお前を必要としてる。これならどうだ」
「……言ったはずだ。俺を必要としてくれる場所でやる」
「おう、そうだな」
だから待ってるとも何とも云わず、それきりで荒木は食事に専念した。
洗いざらしのユニフォームと練習着を慌ただしく鞄に詰めて、部屋に置いてある逢沢傑の写真を一瞬だけ見て、玄関をくぐる。
「じゃ、行ってくらぁ!」
「あぁ、気をつけてな。帰りが遅くなるようなら連絡を寄こせ」
「あいよ!」
嵐が去った家の中、テーブルに残る食器を片付ける。
明け方までレポートをしていた兵藤が、提出を終えてじきに帰ってくるだろう。
ふらふらの身体に何とか朝食は詰め込ませたが、あの分では昼食は必要あるまい。
帰ってからすぐにでも寝落ちるだろうから、今日は布団を干すのは諦めるか、と肩をすくめて自室に戻った。
荒木に知られないようにこっそり作っているスクラップブックを開く。
俺も兵藤も2年生でレギュラーを勝ち取ったが、プロへの道を考えれば、荒木はまだまだ遠い存在だ。
それでも荒木が必要としてくれているというなら、少しは距離が近くなったのだろうか。
「……落ちつかないな」
先のことを考えると、時々こうして居ても立ってもいられなくなる。
そんな時は鞄にボールを詰めて近くの公園へ向かう。
先週、荒木に教わったボールタッチのコツを試す。
そうそう思うようにはいかないが、俺には無いものを取り込む度に荒木に近付くのは分かる。
荒木の傍に居られる内に、荒木がここに居る内に、アイツの背中を預かりたい。
肩の荷を降ろす場所だけでなく、肩を並べられる相手になりたい。
まだ目がくらむほど遠い『青』を、必ず俺も着てやる。
荒木がモチベーションだなんて、自信過剰の王様本人の前では口が裂けても言えないが、それは俺のひそかな目標であり、人生の目的でも、きっとあるのだ。
Fin.
---
ルームメイト続編…続編?
同じ設定で、将来についてのこと。
織田くんが目指す場所に、荒木は既にいる。早く未来を手繰り寄せたい織田くん。
11.09.02 加築せらの 拝