ハツコイグラデーション3
「祐介。ちょっと良いか?」
一フロア下にある祐介と駆の教室に足を運んだのは、駆がクラスの合宿から帰ってきて丁度一週間後のこと。
***
「端的に聞く。駆と何かあったよな?」
「……はい」
連れ出したのは視聴覚室。どうやって借りたんです、と目を丸くしていたので「顔が利くんでな」と吹いておいた。
忘れ物をしたと言って鍵を借りただけだが一年に教えるにはもったいない奥の手だ。
防音設備は放送室と音楽室の次に良いし、内緒話をするにはもってこい。
つまり、何が何でも話を聞きだすまで逃す気は無いということ。
意図を読み取ったか、素直に頷いた。
尤も、そこまでしなくても隠し事するタイプには見えないけど。
「あの、そういえば」
はた、と祐介が首を傾げる。
「どうして俺と何かあった、って分かったんですか?」
「駆がもう一週間も家でお前の話をしてない。前は毎日のように名前を聞いてたのにな」
「あー……」
どう考えても合宿で祐介と何かあった。その推論に辿り着くのは難しくない。
事実だけを述べれば祐介が頭を抱えた。
「……あの。俺から言うのも、変ですけど……傑さん、駆が俺の性別勘違いしてたこと、知ってました?」
「あぁ。小五で初めて会った時から女だと思ってたな。まさかずっと勘違いしたままだと思ってなかったから、俺も指摘しなかったんだが」
「あ、傑さんは気付いてたんですね」
「周りに男みたいな女がいたからな。なんとなく、見分けがついた」
今も異国の地で頑張っている幼馴染の少女を思い浮かべる。
性別は逆だが、要するにユニセックスな外見には慣れていたのだ。
だからまさか、二度の対戦を経てなお、中学に入るまで駆が勘違いしていたとは知らなかった。
「その話を、合宿で駆から聞いたんです」
「……それだけじゃないだろ?」
充分に気まずいとは思うが、祐介がこうして普通に報告できる以上、そのせいで大きな喧嘩をしたとか、そういうことではない筈だ。
それ以上の何か、が無いわけがない。
先輩の威厳的なもので無言の威嚇をすれば「すみません」と小さく謝られた。
「傑さんが既にご存知なら問題ないんですけど……さすがに傑さんにも、駆の秘密を勝手にバラすことは出来ません」
凜、と突っぱねた顔がいっちょ前に「男の顔」をしていて、生意気な、と
可笑しい。
オレだってまだそんな表情になるのはピッチの上くらいだと親友に評された程度なのに。
端正な、見ようによっては今でも十分女のような顔立ちの割に、中身は大層腹が据わって男らしいのか。
さて、これでは口を割らせることは出来ないな。
一考し、仕方がないのでカマを掛けてみることにした。
「……オレは、お前なら駆のことを頼めると思ってる。後は駆の気持ち次第だが……アイツが納得したら、オレの手元から離しても良いと思ってるんだ」
もちろんサッカーのことだ。
今年と来年はオレが駆を導いてやるつもりだが、その後は一年間離れてしまうし、来年までだって代表の遠征で見てやれない期間は結構ある。
今U-16代表でもやってるから、今年のAFCに勝ったら来年の夏前にはU-17W杯だ。
予選を勝ち上がればかれこれ一ヶ月は会えないだろうか。
当然AFCの前にはそのメンバーを選ぶ代表合宿もある……じき、何かと忙しくなる。
その間に駆を預ける相手を探している――のは、事実だ。
だが祐介に別の意図があれば違う意味に聞こえる言葉。
さぁどう出る? と様子を窺ってみると、祐介は実にけろりとした表情で「光栄です」と笑った。
「傑さんの代役なんて過ぎた役割ですけど、精一杯頑張ります」
「……あぁ、頼むよ」
どうやら顔だけでなく、頭の回転も相当に良いらしい。
手強いな、と思いつつ、もしオレの想像した通りのことが起きているなら、それはそれで駆を預けてしまっても良いか、と不意に思った。
(祐介が側についてれば多分、安全だしなぁ)
To be continued...?
祐介、お義兄さん(笑)から認められたよ編(・∀・)
11.10.16 加築せらの 拝
作品名:ハツコイグラデーション3 作家名:灯千鶴/加築せらの