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奥村雪男の愛情

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ドアをノックした。
「どうぞ〜」
そう明るく応える声が聞こえてきたので、雪男はドアを開けて部屋に入った。
部屋の中にはシュラがいる。
シュラは雪男を見て、にやっと笑った。
「おまえ、そんなカッコしてたら詐欺師かホストみたいだな」
今の雪男は髪をきっちりセットし、縁なしメガネをかけている。
着ているのはタキシードだ。
雪男は苦虫をかみつぶしたような表情になる。
「それ、あと少しで夫になる相手に言う台詞ですか?」
ここは南十字男子修道院の一室だ。今だけ、シュラの控室になっている。
今日、これから、この修道院の教会で、結婚式を行うのだ。
シュラがヴァチカンに呼びもどされたのを機につきあい始め、遠距離恋愛を続けて二年が過ぎた。
雪男は大学の医学部に合格し、この春から医学部生になる。まだ学生だが、祓魔師の仕事をしているので収入はある。
それに、シュラも祓魔師の仕事をしていて、雪男以上の収入がある。
この春からシュラは正十字学園の祓魔塾の教師だ。
シュラが日本支部への異動を願い出た際に、ヴァチカン本部は難色をしめしたのだが、それなら寿退社するとシュラが脅し、有能な人材を失いたくないヴァチカン本部はしぶしぶながらシュラの希望通りにしたらしい。
そんなわけで、花嫁であるシュラはウェディングドレスを着ている。
「だいたい、シュラさんに言われたくないです」
「なんでだ」
ウェディングドレスはシュラ本人の特注品であり、当日までのお楽しみと言って、どんなものなのか雪男は今まで見せてもらえなかったのである。
特注したのは結婚式に対する強い意気込みによるものではなかったらしいことが、今、わかった。
「シュラさん、なにかあったら式を放りだして駆けつけるつもりなんでしょう」
そう雪男が指摘すると、シュラはぎくっとした表情になり眼を泳がせた。
「な、なんのことかなっ」
「ごまかそうとしてもムダです。バレバレです」
ドレスの胸元が大きく開いているのも、トップスとスカートがセパレートになっているのも、緊急時に、魔剣を取り出しやすくするためだろう。
つまり、戦闘時を想定したドレスなのだ。
スカートは長いが、いざというときには、なんのためらいもなく破って短くしてしまうに違いない。
雪男はため息をついた。
だが、シュラらしいと思う。
とりあえず、式が終わるまで、いや今日一日は、緊急招集の連絡が来ないことを祈っておく。
「……じゃあ、そろそろ行きましょうか」
雪男はそう言うと、シュラのほうに手を差しだした。
シュラは軽く笑った。
「ああ、そーだな」
その手を伸ばしてきて、雪男の手に重ねた。
手をつなぐ。
そして、歩きだした。
ドアの近くまで進んだ。
「雪男」
「なんですか」
「アタシは今、世界で一番幸せだ」
にゃっはっはっは、とシュラは陽気に笑った。一点の曇りもない、とびきりの笑顔だ。
雪男は微笑み、つないでいる手をぎゅっと握った。

南十字男子修道院の教会を出たところにある庭には、青空の下、人がたくさんいた。
結婚式の招待客だ。
「子猫丸、おまえ」
「七五三みたいやって言いたいんでしょう。朝から何人に言われたか……!」
京都組のほとんどは着物姿である。
勝呂の紋付き羽織袴姿はなかなか貫禄がある。
しえみと出雲も華やかな着物姿だ。しえみの隣には燐が、出雲の隣には廉造がいる。燐と廉造はスーツを着ている。
やがて、教会を背景にして、本日の主役である雪男とシュラを中心に二列になった。

さあ、記念撮影しますよ。
みんな、笑って。









作品名:奥村雪男の愛情 作家名:hujio