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それはほんの短い瞬きの間の出来事で、ティエルがその名残へと触れる頃には、彼は相棒との会話を再開していた。これから戦へ向け軍議が始まる。ティエルは遠く定まらずにいた視線を彼の眸へと向けた。そこには先ほどの温かな包み込むような天の眼差しはなく、鋭く前を見据えていた。
青い稲妻のようだと、ティエルは戦士のその眸を好ましく思っていた。こう称すると彼はひどく表情を引き攣らせてしまうのだけれど──『青雷のフリック』その二つ名は、彼の纏う紋章の光だけでなく、その一色に彩られた衣だけでなく、その眸それこそが青く鋭く天を裂き地を割く雷なのだと。
彼の性の青さを揶揄するものでもあるのは──本人が何より認めているので敢えて口にしたことはなかった。
視線を感じたのか、フリックが振り返る。そうして柔らかく眸が細められた。遠いあの頃射殺すように冷えていた天色は、今はただただ穏やかで温かだった。やさしいそれは心地良くけれど何となく癪に感じて、ティエルは変わらぬ表情のまま数歩踏み出し──その外套を踏みつけた。
突然の暴挙に笑みを引き攣らせるフリックと腹を抱えて笑うビクトールの横を、何事もなかったかのようにすり抜ける。
「帰ってこい」
ただそれだけを告げて。
痛みを伴った響きに、二人は振り返ることなく去る背中へと拳を掲げた。
「行ってくるぜ」
それは、帰るための言霊。