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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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【完全読み切り】画

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 「そうか。もうあれからそんなに経つのか」
 「大体、ダイゴさん普段何してるんですか?」
 「…趣味に興じてる」
 「そういうと思ってました」
 「ミクリくんは何してるんだよ」
 「コンテストに出てますね」
 「だろうね」
 「…バトルはやらないんですか」
 「やってるよ。一度得た栄冠は取り戻したいものだからね。君だってそうだろう?」
 「ええ」
 ミクリはその青年…ダイゴに答えた。
 「チャンピオンだった時期があるっていうだけで、満足できるものではありませんからね…」

 #

 3年前、一人の少年がジョウト地方からやってきた。その少年はジムリーダーの息子だった。連れていたキモリ・アチャモ・ミズゴロウの三匹を駆使して、さまざまなエリアをたった一人の少女と共に駆けまわって、ジムリーダーを次々と撃破し、挙句にはコンテストマスターランク優勝も成し遂げ、さらに行き過ぎた環境保全団体で、エコテロリズム(注:環境保全などと称して、行き過ぎた破壊活動や、目的との関連が不明瞭な一歳の行為をすること)を繰り返す結社、マグマ団・アクア団を壊滅させた。道中でオオスバメ・サーナイト・ライボルトを仲間にして。

 そして、ついにはサイユウリーグの頂点に立った、その少年。
 それが、ユウキ。

 彼の前に、ミクリは、なんとあっけなく負けたのである。
 すべての攻撃技を封じられ、文字通りの完敗。
 まだ経験も浅い少年トレーナーに完全敗北したのである。
 頼みの綱のミロカロスすら、冷凍ビームなど打つ間もなくリーフブレードで切り刻まれた。

 その少年はそのあと、どこかへと消えた。よその地方でも、リーグ優勝者が消える事件が相次いでいる。恐らくそのひとつなのだろう。

 とはいえど、彼にとってはいらいらすることに他ならなかった。彼は翌年のリーグで、…彼のいないリーグで優勝した。だが、喜びがわかない。わくはずもない。彼に勝とうと思ってずっと努力をしたというのに。世界のだれよりも今現在倒したい相手だというのに。

 「…ストレス溜まりすぎじゃないか」
 「そうですかね」
 「一度キミも石集めしてみたらいいのに」
 「…むしろストレス溜まりそうですね」
 「ひどい言い草だな」

 「とりあえず、一回休んだ方がいいって」
 「そう言われても」
 「でもそんなに焦ってたら、できることもできなくなるだろ」
 「…」

 #

 リーグ入賞者というものはリーグ期間以外は休んでていい仕事である。それで暇になったジムリーダーをやる人もいる(ただしその年のチャンピオン、及び、シード権所持者・いわゆる四天王はほかの仕事は禁止されている)。ただし、逆に、今の彼はただ修行だけをしていれば許される身である、ととらえることも可能である。つまり、どんな場所へ行って修行してもよい、というわけだ。これはとても素晴らしいことではないか。

 「しっぽう渓谷にでも行ってみるかな」
 
 7の島、南の渓谷、それがしっぽう渓谷。
 トレーナーたちが自分たちの実力の向上、という非常にシンプルな理由で集まる。奥深く入り組んでいて、なおかつかなり隆起していたらひどく落ち込んだり、と、勝負の場所としては非常にやりづらい場所である。だからこそこぞって挑戦者が絶えないのであるが。
 なお、ここにすむ野生種はその環境に合わせてか、飛行する種類が多い。また、余り動かない地面種も多く生息する。よって、水や氷の使い手は有利といわれているが、稀にいるドラゴン種や炎種にやられたり、そもそもここの一体は360度どこからでも野生種が現れる中でのトレーナー戦なので、別段どのタイプが有利ともいえない特訓場である。
 チャンピオンが鍛えるにはいい場所である。ミクリはたどり着くなり、さっそくマンタインとペリッパーを繰り出して、空を飛んで、落ち着ける場所を探す。このエリアは365日24時間、しかも普通ならバトル前には挨拶をするが、ここではそんなことをしている暇もない。やってきたものには攻撃という洗礼である。普通このような場所は危険地域として、規制かなんかが入るものだが、そもそもここは渓谷地帯で人も住まないために、とりあえず、もう動けなくなったトレーナーを救うためのこれまた365日24時間フル稼働の救助隊がいる始末である。

 #

 「ふう…これで何人撃沈しただろうか…」
 おちおち休んでられないので、周りのトレーナーを倒したらさっさと縄張りを作って、そこで回復や自分の食事をすませるしかない。世界で最もきつい闘技場と呼ばれる所以がそこにある。
 「…あぶなあい!」
 ふとそこで、ひ弱そうな少女がそこで落ちていく様子を見た。下は断崖絶壁、そこには岩と地面ポケモンの巣窟。どう考えたって少女が助かるはずがない。しかしこの位置からは届かない。稀にそんな人間(死者)もいないわけではないが、自分がその一部始終を見るのは辛い。駄目だ、と思って目をつぶり、ゆっくり目を開ける。

 そこにはその少女の死体などなかった。

 「…な…」

 地面にふれる数瞬のうちに彼女はフライゴンを繰り出している。
 「あの、数秒で…か…?」
 見ると、彼女はそのままバトルに参入する。少女は白い帽子をかぶっていた。
 (見たことがあるぞ…あの少女は…イエロー)
 ミニスカート、リストバンド、そして桃色のバトルサーチャー。そう見ても、あのワールドリーグ3位入賞の少女である。
 (女の子、なのに、か)
 ふと彼は、大きな感覚に包まれる。
 「ふ…ふふ…」
 彼の知っている少年、ユウキは、まだあの少女には敵わない。
 その足元に及ばない自分は、あの少女には到底及ばない。
 先に鍛えたものが必ず勝てるとは限らないポケモントレーナーの世界。

 「待ってろよ…私の水ポケモンの底力、とくと見せてやる」
 空から地から、迫る水流、魅せられてアダン師匠のもとに弟子入りしたあの時。

 「どこからでもかかって来い、世界の覇者たちよ…」