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チョコ味のキス

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「ねえ、日吉は誰かバレンタインチョコもらいたい人とかいる?」
バレンタインデー前日、鳳はそんな話を振ってきた。
「俺はね、宍戸さんからチョコもらいたいなぁ。あ、もちろん俺もあげるけど。」
結局は惚気たかったのか、と鳳の言葉を無視しようとしてふと思いとどまる。
向日さんはチョコとか欲しいのだろうか。
「あ!やっぱり日吉にもそういう人いるんだぁ。」
「なっ!?」
この天然はこういう時だけ鋭くなる。
「日吉ももらえるといいね。」
「余計なお世話だ!別にチョコとかどうでもいい!」
鳳にはそう言ったが、向日さんのことが頭から離れなくなり結局学校帰りに店によりチョコを買った。


買ったまでは良かったが問題は渡すことだ。
向日さんは俺からのチョコなんていらないだろうか。
そんなことをぐるぐる考えたまま向日さんのクラスの前まで来てしまった。
しかし、またそこで躊躇してしまう。
どうしたものか、と悩んでいると突然肩を叩かれる。
振り返るとそこには鳳が立っていた。
「日吉、こんなとこで何してんの?」
「お、俺は別に・・・そう言うお前こそなんでこんな所にいるんだ?」
鳳はにこにこ笑顔で微笑む。
「今宍戸さん所行ってたんだ。チョコ渡したら顔真っ赤にしながら俺にもチョコくれたんだぁ。」
そう言ってあっ!と驚いた声をあげる。
「それもらったの!?」
鳳は俺の手にあるチョコを指差して言う。
「え、いやこれは・・・」
否定しようとした時、聞きなれた声で呼ばれる。
「よ!日吉、こんな所でなにしてんの?」
それは俺がチョコを渡そうとしていたその人であった。
「あ、向日先輩!聞いてくださいよ。日吉ってば好きな子からチョコもらったんですよ。」
俺ははぁ!?と鳳を睨む。
「お前何言ってるんだよ!これは・・・」
言いかけてはっと向日先輩を見ると、驚いたような、傷ついたような目で俺を見る。
「そう、だったのか。」
「え、向日せんぱ・・・」
「ごめん!俺用事思い出した!」
そう言って向日先輩は教室を飛び出した。
「向日先輩!待ってください!」
向日先輩はそんな俺の言葉に振り向かずに走り去った。
「あの、俺何か悪いことした?」
そう言う鳳を俺は睨み付けた。
「後で覚えてろよ。」
俺はそう言い置くと、向日先輩の後を追いかけた。


追いかけて辿り着いたのは部室だった。
扉を開くと、部室の隅で体育座りをして顔をうずめている向日先輩がいた。
「あの、向日先輩・・・」
そっと近づいていくと、向日先輩は顔を上げた。
たくさん涙を流した後があって、それなのに目にはまた新しい涙が溜まっていた。
「日吉・・・好きな女いたのか?」
なにか恐れているようなその問いかけを俺ははっきりと否定する。
「いません。好きな人はいますけど。」
そう言って俺は手に持っていたチョコを向日先輩に差し出した。
「俺は向日先輩が好きです。・・・てゆうか俺たち付き合ってるんじゃないんですか?」
向日先輩は驚いたように俺を見る。
「だ、だってお前付き合うようになっても態度変わんないし、俺の勘違いだったのかもって思って・・・」
「だったらちゃんと覚えていてください。俺は向日先輩が好きですし、恋人だと思ってます。」
そう言うと、向日先輩はまた涙を流す。
「もういい加減泣き止んでください。目が溶けちゃいますよ。」
「だってお前が悪いんだろ!そんなこと言うから・・・」
「嬉しくないんですか?」
不安そうに俺が聞くと、向日先輩は顔を真っ赤にする。
「嬉しいから泣いてるんだろ!」
そう言って泣き続ける向日先輩に手に持っていたチョコの包装紙をあけて一つ口の中に入れてやる。
「・・・甘い。」
「チョコなんだからあたりまえでしょう。・・・泣き止みましたか?」
チョコを一つを食べている間に少し落ち着いたらしく、涙はもう止まっていた。
それを見て俺は少しだけ安堵すると、もう一つチョコを向日先輩の口に放り込む。
「ありがとな、日吉。」
向日先輩の言葉に俺はふ、と微笑んだ。
「いえ、どういたしまして。」
悩みながらもあげてよかったと思った。
すると、向日先輩は申し訳なさそうに俯く。
「ごめんな。日吉は俺のためにここまでしてくれたのにお前のこと疑うし、チョコも何も用意してないし。」
「いえ、そんなの気にしてませんよ。でも、もし何かくれるつもりなんでしたら。」
俺はそっと向日先輩にキスをする。
「こっちの方がいいです。」
そう言って向日先輩を見ると、向日先輩は顔を真っ赤にする。
「お前っ!そんな恥ずかしいこと言う奴だったか?」
俺はふ、と笑う。
「向日先輩の前だけですよ。こんなこと言うのは。」
向日先輩は顔をより一層赤くして俯く。
「なんか、俺ばっかりもらってる気がする。」
「だったら、もう一回キスしてもいいですか?」
顔を近づけると、向日先輩はそれを止める。
「お、俺からするっ!チョコの代わり、だから・・・」
そう言ってもう一度キスをした。
向日先輩からされたキスはチョコの味がしてほんの少し甘くて、甘いのはあまり好きではなかったが、こういうのなら悪くないなと思った。


部室前。
「おい、誰か中に入ってあいつら止めてこねーか。」
跡部は部室の扉を苛立った様子で見る。
「日吉、向日先輩が好きだったんだ。俺のせいでケンカしちゃったっぽいけど、仲直りできたみたいでよかった。」
「鳳、テメーがあのバカップルがイチャイチャする原因だったのか!」
跡部は鳳に詰め寄る。
「でもま、学校でイチャつく岳人も激ダサだよな。」
助け船を出すつもりで宍戸はそう言ったが、跡部に白い目で見られる。
「テメーらもいつもイチャついてんだろうが。」
「なっ!?んなわけねーだろ!!」
「まあまあ二人とも落ち着いて、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでまえってよう言うやん。ここはもうちょっと待ってやろうや。」
忍足は二人を宥めながら内心では少し喜んでいた。
パートナーで友人でもある向日が幸せそうにしているのは自分にとっても嬉しい。
あの二人の幸せな時間がいつまでも続けばいいと思う。
まぁ、その願いもこの後、跡部が乱入して叶わなくなるのだろうが・・・

作品名:チョコ味のキス 作家名:にょにょ