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殺伐……のつもりが不二がただの構ってちゃんになってます。
雰囲気小説。



不二は読んでいた本を閉じる。大型書店で購入した英語の小説は文庫サイズで50ページも無いので、簡単に読見終えることができた。
ふと、横に視線を向けると、ベッドに腰を掛けて、雑誌を読む幸村の姿がある。音楽プレイヤーにつながれたイヤホンを耳にしており、声を掛けても聞こえなさそうだった。
彼のテニスのプレーを思い出しながら、普段の生活を見ている様子からは思いつかないな、と不二はぼんやり思った。

不二は幸村の横に座ると、彼のイヤホンをはずして言う。

「いい加減、人の感覚奪うのやめないの?」

じっと幸村の横顔をまっすぐ見つめる不二に、幸村は一瞬だけ雑誌から目を外して、またすぐ視線を戻すとページをめくる。

「君こそ、いつまでぬるいテニスを続けるつもりだい? 勝とうとする努力もせずに試合をするのは対戦相手に失礼だと思うけど」
「ぬるいつもりはないんだけどね、君にはわからないかな」

幸村が開いている絵画の歴史や博物館情報が載った雑誌に目を落とすと、関東圏にある美術館で始まったばかりの展覧会について、簡単な紹介がされていた。
あ、気になってたんだよね、と不二はぼんやり思う。

一方、幸村は幾度となく繰り返したやり取りに飽きたのか、ため息混じりに言い返してくる。

「君こそ、僕の事をわかってないように思うけど」

分かり合えるとは思っていなかったけど、この話を始めだすと平行線を辿るしかなかった。

手の中であまらせていた左耳用のイヤホンを自分の耳に不二はつける。流れてきたのはクラシック。
春がテーマの、芽吹きや未来を表現している。幸村のプレースタイルとは似つかない曲だった。

「こんな曲を聴く人がね」
「何を聴こうが僕の勝手だろう。だいたい、僕のプレイを悪だというなら、君のプレイは正義かい?」

幸村はようやく雑誌を閉じて、じっと不二を見た。
射抜くような瞳は恐怖さえ人に植え付けそうなほどだった。それでも、不二は目を逸らすことをせずに、まっすぐ見据えた。

「正義の反対は悪ではないし、自分のやり方を正義と驕るほど愚かなつもりは無いよ」

ふーん、と含みを持たせた笑みを浮かべると、幸村はまだ耳についていた片方のイヤホンを、不二の開いている耳に掛ける。

「あ、今から真田とテニスショップ行くことになってるから」

音楽の間から漏れた幸村の言葉に不二は不機嫌な顔をする。

「なにそれ。聞いてないけど」
「いま言ったよ」

立ち上がり、幸村は伸びをする。

「それ、貸しておいてあげるから、帰ってくるまでには機嫌直しといて」

「別に機嫌は悪くないけど、音楽プレイヤーで機嫌直そうっていう安い考えはやめたほうがいいんじゃないかな」

上着を羽織りはじめる幸村の背中を見ながら不二はそのままベッドに倒れこんだ。言ってくるよ、と自分に向けられた言葉に対して目を瞑り、イヤホンから流れる機械で構成された音に耳を傾ける。自分の気持ちとは裏腹の温かい音色に、小さくため息を漏らした。


作品名:ss 作家名:すずしろ