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カイト君こんにちは

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中古店でトマトでも買うようにボカロを衝動買いした軋峰だが、流石にその日のうちに持って帰ることも叶わず。分厚い説明書に契約書、またマスター登録についての説明や研究施設などの紹介パンフレットも山ほど貰った。
全てにきちんと目を通して、大体の背景や必要な器具に知識は理解したつもりだ。
「こんにちはー、お届け物でーす。」
「ども。」
黒猫マークが有名な宅急便で届いたのは、やたらにデカイ箱が一つ。早速明けてみれば、店で見た青い青年が眠っている。店から丁寧な手紙と再度起動の手順を説明した紙が一緒に入っていたが、軋峰はとにかく動かそうと早速パソコンを起動する。首から伸びる端子を接続してから、専用ページにとんで、住所やら名前やらを登録してから、今度はボカロのタイプ選択へと映る。カチカチとマウスをクリックして、とにかく先に先にと急がせる。早く、コノ青年の歌声を聞きたい。
『マスター登録が完了致しました。起動しますか?』
迷わずにはいを選択してから、軋峰は青い青年の目の前に立つ。これで、瞳を開いた青年が網膜によるマスター登録をすれば完成だ。
ゆっくりと上がる目蓋に合わせて、長い睫毛が震える。
「ハジメマシテ、マスタ。」
かくかくとした声は、柔らかいテノールだ。確認するように一音づつ切り刻んで放たれた言葉でも、その音の美しさは実感できる。
「モウマクスキャン、カンリョ、デス。」
真っ青な瞳は、何億年も前に封じ込められた氷に似ている。冷たくて、決して融けない、拒絶を示す青。
「こんにちは、カイト君。」
「こんにちは、マスタ。」
どうやら、一度耳にした言葉は学習が出来るらしい。軋峰は、興味深そうになんやかんやとカイトに質問を浴びせる。全てに律儀に答えるカイトは、面白い。
朝一番で届いた宅急便、気付けばすでに表は真っ暗だ。カーテンを閉めていない窓から、表の街灯が差し込んでくる。
「あぁ、もう夜か。おいで、カイト。」
「はい、マスター。」
フローリングの上を危なげなく歩くカイトからは、足音がしない。瞬時にして体重移動をし二足歩行をするボカロは、基本的に動きに体重を感じさせない。機械なのだからそれなりに重いのだが、そんな様子は微塵も感じさせない。噂では、一本張ったロープの上すら歩くとのことだ。
「そこ、座って。」
「はい、マスター。」
リビングのソファーにカイトを座らせて、軋峰は冷蔵庫を開ける。空腹は感じていないが、喋りっぱなしで喉が渇いている。それに、煙草も吸いたい。良く冷えたビールを二本と、灰皿を掴んでリビングへ戻れば、まったく同じ姿勢で座り続けるカイト。
「楽に、すれば?」
一本ビールを差し出してから、軋峰は床に直接座る。すると、何を思ったのかカイトも同じくソファーから降りて床に座り込む。何時の間に覚えたのかプログラムされているのか、正座だ。
「マスター、これは何ですか?」
手渡された缶ビールを見つめながら、カイトは質問する。軋峰は、ビールと簡潔に答えてからプルトップを引き上げる。
「アルコール。お酒、百薬の長、命の水、泥沼、寿命を縮める毒。色んな呼び方があるけどな。呑めないなら、止めるか?他にも飲み物はあるし。多分ジュースもあるぞ。」
「え?」
軋峰の言葉に、カイトは心底不思議そうな顔をする。
「あの、これは、俺の分ですか?」
「うん。それ以外に、渡す理由ないし。」
「いいえ、これを冷やしておけという意味かと思っていました。」
「なんだ、そりゃ。なら冷蔵庫使うって。」
見当違いも甚だしいカイトの台詞に、軋峰は少しだけ笑って缶を取り上げる。確か、以前お隣のボカロが来たときに置いていったジュースが残っていたはずだ。紙パックのジュースを手渡して、まぁ呑めば?なんてうながしてやれば、カイトは恐る恐る口を付ける。それが、幼い子供の仕草みたいで、軋峰はまた笑う。見た目は自分よりも大きいのに、なんだか弟でも出来た気分だ。
「ありがとうございます、マスター。」
「どういたしまして。さて、カイト君。」
「はい、マスター。」
「お前の歌声、聞かせて?」
「俺には企業PR用のデータしか入っていませんでした。それも、処分されています。」
「なるほど。」
つまり、いちから全てデータを入れ込みしなければ歌えないらしい。なんともマニア心を擽る設定だ。それでも、耳から吸収した情報を学習する機能があれば、細かい調整はさておき歌えるのではないか。
軋峰は、リビングの隅に置いたピアノへと向かう。缶ビールを譜面台に乗せて、ついでに灰皿も置いて、咥えた煙草もそのままにいくつかの音をだす。ポンポンと鍵盤を叩いて音を確認してから、カイトを呼び寄せる。
「Ah〜♪AhAhh,lalalamm〜。追いかけて。」
「あ〜、ああぁ、らららんん〜。」
「lalala〜♪la,la,la,la,la。」
「ららら〜、ら、ら、ら、ら、ら。」
軋峰の声を追いかけるカイトの声に従って、ピアノの伴奏を微妙に変えてやれば、カイトはどこか楽しそうに音を紡ぐ。軋峰も楽しくなって、ぽんぽんと音を生み出していく。
「今日は、カイト君が、家にきましたぁ〜♪」
「きょうはぁ、かいとくんがぁ、うちにきましたー。」
「こんにちはの挨拶で、家族になりました。」
「こんにちはぁーのあいさつでっ、かっぞくになりましたぁ〜。」
「よろしくね、カイト君。」
「よろしっくねぇ・・・ますたぁ?」
いいですか?と目で問いかけてくるカイトに、軋峰はそうそうと肯いてやるのだった。
作品名:カイト君こんにちは 作家名:雪都