ああ、そうか
だから優位に立つべき人間なのは自分の方であって、帝人くんじゃない。
そうだよ、うん。
俺は健気に自分を思う帝人くんを哀れに思ってちょっとくらい彼に良い思いをさせてやろうと、僅かな良心を動かしただけだ。
で、この仕打ちは一体なんだ?
「えっ…?付き合うって・・・誰が、ですか?」
「え!?僕と臨也さんが?」
「・・・いや、それは…。」
「ちょっと・・・。」
『ちょっと』!?
ちょっと何だっていうんだ!?
だいたいなんで告白してあげた俺を怪奇な者でも見る目で見るんだ!?
そこは頬を赤らめて困り顔で、でも、嬉しくてたまらないっ…みたいな表情じゃないのか!?
自分でも顔が強張っていくのがわかる。
目の前で帝人くんの顔色が青褪めていく様子からしてまず間違いないだろう。
でも止まらない。
「・・・はは。よ、よろしくお願いします・・・。」
だから、なんでそう何かを諦めた表情でOKするかなぁ、君は!!
こうして、俺たちは付き合い始めた。
正直順調だなんて言えるわけもない。
俺が不機嫌になると帝人くんはすぐに怯える。
怯えて、はいそうです、その通りです、と俺に従う。
その姿に俺はまた苛立つ。
おかしい。
こんなに苛立つことなんてなかった。
俺はいつだって余裕たっぷりで悠然と笑みを浮かべて、人間を突き落すことに喜びを感じていたのに。
今や、俺との会話の中で帝人くんが一瞬でも笑ってくれることにどうしようもない喜びを感じている。
笑ってほしくて、帝人くんが欲しがるものやしたいことは全部叶えようと努力して、みっともないことこの上ない。
さらに残念なのはそんな自分が意外と嫌いじゃないことだ。
こんなに、こんなに甘やかしてあげてるのに帝人くんはいつもいつもいつも俺の顔色ばかり伺って、俺の出血大サービスも良いとこの甘やかしに『とんでもない!』と青褪める。
人間が青褪める姿は大好きだけど、帝人くんだけは別だ。
元より青褪めさせるためにやってるわけじゃないし。
思い通りにならないのは嫌いだ。
キスだってセックスだってガチガチに緊張して目をぎゅっと瞑って体をこわばらせた帝人くんとじゃ完全に犯罪者の気持ちだ。
両想いのはずなのになんだこの空しさは。
俺の横でずっと下を向いてちょこちょこと歩く帝人くんは可愛さ余って憎さ百倍。
この人ごみの中で無理やりキスしてひん剥いて啼かせたらきっと怒るだろう。
でもその、怒りでいいからちゃんと俺に向けてほしい。
ちゃんと俺を見て、
こんな一方通行みたいなのは嫌なんだ。
「好きだって言ってるのに、どうしてわからないかなぁ、君は!」
嗚呼、また声を荒げてしまった。
きっとまた青褪めて『ごめんなさい。』と頭を下げるんだろう。
そんな諦めに似た気持ちで帝人くんを見ると、予想外に目を見開いてポカンとしている。
その間抜けな表情が一気に赤く染まる。
「す、好き!?」
え!?何今さらそこに反応!?
「は、初めて言われたから、その、す、スイマセン。」
そうだっけ?俺は内心首を傾げた。
顔を赤くしたまま下を向いてしまう。
ああ、止めてよ、もう!せっかく可愛いのに。
「っ、はぁ~…っ。どうしよ、僕・・・嘘でも嬉しいっ。」
帝人くんがなんだか泣きそうな顔で笑いながらそんなこと言うもんだから、
俺の中にぎゅっ~っと何かが込み上げて、なんだか酷くたまらない感じになって
抱きしめてしまいたくなった。
ああ、そうか、これが愛しいってことか。
絶対相手になんかされないと思っていた相手に「付き合おう。」なんて言われて、うわ、これ絶対罠だ、騙されてるだろ自分、と戒めて、いつ裏切られてもいいようにしなきゃ、
なんて思ってたなんて、
きっと臨也さんには一生言えない。