朝が来るまでもう一度
(――なんて夢だ)
夢の中の光景が脳裏を過る。心臓がうるさく騒ぎ始める。ああああああ、と思わず呻き声を溢して頭を抱えた。頬がどうしようもないほど熱い。
夢にはある人物が現れた。よく……かどうかはさておき、少しは知っている人物であった。その人は共に訓練を受けている同期生である。黒髪。背はほとんど同じくらい。因みにその人の幼馴染みの少女はよく夢に現れる。幼馴染みの少女はその人のことが、――彼のことが、大層好きなようだ。
(いやだからってなんで俺があいつを夢になんか見るんだ! しかもなんであんなこと……)
「――ぅわっ」
その時、小さな叫び声と共に衣擦れの音が聞こえた。反射的にそちらを向く。
この暗がりの中ではどんなに見知った相手でも顔も識別できない。辛うじてシルエットが分かる程度だ。
しかし闇と同化した髪の色くらいは分かる。
彼はしばらく肩で息をしていたが、急にそれが止まったかと思うと、次の瞬間動揺も露わに体を大きく震わせた。そして勢いよく再び寝転がり、シーツを頭まで被った。恐らくこちらに背を向けて。
ジャンは少しの間ぼうとしていた。それから、己もゆっくりと身をベッドに横たえた。同じように背を向けて。まだ夜は深い。きっと東へいくら目を凝らしても、太陽の眩いたてがみの端さえ見えないだろう。しかし朝になれば、また訓練がある。巨人と戦うため、あるいは人類の有意義な犠牲となるため、自分たちは心身を鍛えなければならない。それには休息をしっかりとることが必要だ。朝が来るまでにもう一度眠ろう。残酷な運命を待つ少年たちが詰め込まれた箱の中で、ジャンは目を瞑った。
胸のざわめきを静めながら。
作品名:朝が来るまでもう一度 作家名:ひいらぎ