flower
夕暮れ色が空から落ちてくる緑ゆかたな庭に、正十字学園の制服を着た少女がぽつりと立っている。
杜山しえみだ。
しえみは、泣いていた。
ひとりで泣いている。
ふと。
その近くで、花がひとつ、咲いた。
さらに、また、ひとつ、ふたつ、みっつと、緑は色とりどりの蕾をつけて花開いていく。
しえみが自分の足元で植物がたくさん花開いているのに気づいた。
庭に咲く花を眺めている。
少しして、しえみは口を開いた。
「そこにいるんでしょう?」
呼びかけられた。
だから。
「……バレましたか」
アマイモンは木の陰から、しえみのまえに出ていく。
突然それも急速に花がいくつも咲き出したのだから、自分がこの庭にいることがバレて当然だ。
それでも、バレるのに、アマイモンは地の王としての特殊な力を使って、しえみの近くにある植物の花を咲かせた。
なぜか、そうせずにはいられなかった。
アマイモンはしえみの近くまで進むと、立ち止まった。
しばらくのあいだ、どちらも黙っていた。
けれども。
「……みんな、私を助けてくれるの。戦っていて、自分のことで精一杯なはずのときでも、助けてくれる」
しえみが話し出した。
「私が、弱いから」
ええ、そうですね。
たしかにアナタは弱い。
そう思ったが、アマイモンはそれを口に出さずにおく。
「今日もそうだった。私は助けてもらうばっかり。本当は、私がみんなを助けたいのに」
しえみはもう泣いてはいない。
だが、その眼は潤んでいるし、顔には泣いたあとがある。
しえみが言ったのは綺麗事ではなく本心に違いないのが、わかる。
いつだって、しえみはまわりにいる者たちのことを大切に想い、その者たちのために一生懸命だ。
それが伝わっているからこそ、まわりにいる者たちも、しえみを大切にするのだろう。
しかし、そうなれば、しえみはいっそう相手を大切に想う。
自分の弱さがもどかしくなるのだろう。
「強くなりたい……!」
顔をゆがめ、しえみは言った。
必死な想い。
それが、アマイモンの胸を打った。
心が動いた。
手をあげた。
けれども。
少しあげただけで、その手の動きを止めた。
しえみへと届くまえに、おろした。
どうしてだろう。
以前に森でさらったときのように簡単には、しえみにさわれない。
触れたいのに、触れられない。
その理由を考えて、やがて思いあたる。
簡単に越えられないものが自分としえみのあいだにあるから、だ。
アマイモンはしえみに触れる代わりのように、口を開く。
「大丈夫です。アナタは強くなりますよ」
なぐさめるための嘘をついたわけではなかった。
どれぐらいまで強くなれるかはわからないが、今より強くはなるだろう。
強くなりたいという気持ちがあるのだから。
しえみは眼を大きく開いている。
じっとアマイモンを見ている。
そして。
その身体が動いた。
ぶつかってきた。
胸に、その身体のやわらかさを感じる。
花が咲いたような気がした。
その花の名前は知らない。
……いや、本当は知っている。
アマイモンは自分の胸に預けられているやわらかな身体に手をやり、そっと抱きしめた。