恐怖の座談会(予想図)
出演者座談会、会場内。
部屋の隅、壁の方を向いてしゃがみこんで、自ら持ち込んだ袋の中に手を突っ込んで、何やらガサガサと言わしているウォルター。
その背後に立ち、アンディはウォルターの手元を覗き込んだ。
「……ウォルター、何してんの?」
ウォルターがびくっとする。
サッと振り向いて、声をかけたのがアンディだと知ると、ホッと安堵した様子で、それでも口に人差し指を当てて『シィーッ』と言って、声をひそめるようにアンディに促した。
どうやら、『誰か』に知られたくない『何か』らしい。
アンディはウォルターの隣に同様にしゃがみこむ。そして、見えやすくなった手元を再び覗き込んだ。
袋の中身は泥だった。それを一生懸命こねている。
「どうするのさ、そんなもの」
少し呆れて……何してるんだか……問うと、ウォルターは少し後ろを振り向いて、視線で教えて、ぼそっと言った。
「アイツにぶつけてやろうと思って」
アイツ……視線の先は、部屋の中央で立ちつくしている、バジルだ。
目敏くふたりの視線をとらえ、『あ?』と訝るというより、喧嘩腰の不愉快そうな視線を返す。
「避けられるよ」
「おまえならそうかもな」
アンディの忠告にそう返し、せっせと泥団子を作り、袋の中に溜めていくウォルター。
これは一気に投げる気だ。
アンディはぼんやりと『これは血を見るなぁ……』などと思う。
もはやウォルターを止める気はない。だいたいバジルが悪いし。少しくらい意地悪されたって。
っていうか、平和的な話し合いができるとはとても思えないし。もうメンバー的に。
もちろん、平和に済めばそれが一番いいけれど。
どうだか……と、ふう、とため息を吐く。
泥団子の飛び交う座談会会場か。
「後は座ると音の出るアレを座布団の下に入れて……」
「あいつ座らないわよ」
ふたりして振り向けば、腕を組んだアンナが後ろに立ってふたりを見下ろしている。
アンディがきょとんとする。
「アンナじゃないか。どうしてここに?」
「前にまともに話ができなかったからよ」
『1話と2話で出演はしてるんだから(3巻までの間)』と主張する。そして、ふたりに並んでしゃがんだ。
『誰?』と尋ねるウォルターに、アンディが『アンナ。<ジョルダーニ>のボス』とごくごく短く紹介する。
アンナは目をキラリと光らせて告げた。
「地べた汚いから、って座らないのよ、あいつ。だから例のクッションはダメ。そのかわり、お茶に雑巾のしぼり汁でも入れてやるとか」
「相当頭にきてるみたいだね、アンナ」
「発想が嫁姑戦争みたいだな」
無表情で感想を言うアンディと、唖然として突っ込むウォルター。
「何を生温いことを」
「「「あ」」」
間に入った声に全員が振り向く。
3人の背後に、女帝ラウラが腕を組んで立って3人を見下ろしている。
目を据わらせて明らかに不機嫌そうなラウラが、『フン』と鼻で笑ってバジルのほうを見やって言う。
「地面に引きずり倒して靴の裏をなめさせてやる」
「「「!」」」
全員が恐れおののいた。
「そこで倒す方法だが」
3人に並んでしゃがみこむ。
『あっ、座った!』と全員が驚いた。
「おい、アンディ」
背後から声がかかるが、それどころではない。
アンディはあっさり無視した。
ちなみに、シャルルはおとなしく座布団に座って全員が揃うのを待っているので、シャルルの声ではない。
4人でぼそぼそと話し合う。
「そこまでいくともうイジメじゃない?」
「何を言う。あいつは目障りだ」
「私、この前『落ちぶれマフィア』って言われたのよ!」
「俺なんか、『外見キモイ』だぞ、アンディ!!」
「バジル、嫌われてるんだね」
アンディが無表情に言う。
「おい、アンディ!」
また後ろから声がかかったが無視した。
「どうやって倒す気?」
「知らん。倒した後は任せろ」
「いっそ濡れ雑巾投げつける?」
「泥団子はぶつけてやりたい」
「じゃあ、顔に濡れ雑巾投げつけるのと同時に、足元に泥団子ぶつけて倒して、靴の裏で顔面踏むことになるね」
アンディが無表情に言う。
「おい、アンディ!!」
またまた後ろから声がかかったが、無視した。
「バジル、そこまで憎まれてるんだ。ふぅん……」
「『ふーん』じゃねぇよ、アンディ!!」
がっしと肩をつかまれて、アンディはゆっくりと振り向く。
そこに、鬼の形相のバジルがいた。
「あ、バジル。いたんだ。……そういえば」
「『いたんだ』じゃねぇぞ、てめぇーっ!!」
ぐいとアンディの襟首つかんで持ち上げ、バジルが怒鳴る。
「アンディ、いい加減にしろよ!? てめぇが一番俺をイジメてんだっつの。シカトに『嫌われてる』だの『憎まれてる』だのカゲ口か! ええ!?」
「だって本当のことじゃん」
「『本当のこと』だなんて言うか!? どうなってんだ、いったい何考えてんだ!?」
「かわいそうだなーとか……」
「かわいそう!? おまえに憐れまれる覚えはねぇぞ、コラ!!」
「だって……」
ぽかーんと見ていた残りの3人。
ウォルターがぽつりとつぶやく。
「アンディの破壊力が一番スゴ……」
最初から座布団に座ったきりのシャルル。
「今回もダメだな……」
(おしまい)
作品名:恐怖の座談会(予想図) 作家名:野村弥広