さまよえるさみしがり
いつもは仲間たちの声でとても賑やかな森の中が、今日はひどく静かだった。その中でぼくは小さく鳴く。普段ならだれかが鳴けばまた他のだれかが鳴くのに。静けさにぼくはたまらなく寂しくなった。
きっかけは多分ぼくらの群れのリーダーたちの喧嘩にある。ぼくらムックルたちを率いていたリーダーはふたりのムクバードだったんだけど、先日そのうちの片方がムクホークに進化した。
とってもおめでたいことだし、ぼくたちにとっても嬉しいこと。その日は餌を集めるのにも精を出し、食事も豪華なものになったことは記憶に新しい。
とにかくぼくは単純にいいことだと思っていたんだけれど、その日から群れの中がぎこちないものに変わってしまった。
進化したムクホークはえらそうにするし、ムクバードはムクバードでムクホークに怒っているみたいだったし。どうしてなのかぼくにはよくわからないけど。
いつの間にか群れの中がムクホークを支持する派とムクバードを支持する派の二派に分かれていて、ぼくはその間をうろうろとさまよっていた。
だってぼくはやっぱりみんな一緒がいいし、リーダーだってふたりいいじゃないかと思う。けれどもぼくみたいなのは少数派で……少数派と言うかぼくひとりだったみたいで。
今日の朝目覚めたら、この森に残されていたのはぼくだけだった。
たぶんでしかないけれど、ムクホークとムクバードがそれぞれを支持するムックルを連れて、新しい住処を探しに旅立ってしまったんじゃないかと思う。
ぼくの頭じゃ考えられるのはそれぐらいだった。
原因はいいとして、これからどうすればいいんだろう。
寝床は木の上にちゃんと残っているから問題ないけれど、今ここにいるのはぼくだけなんだから、食べるものはぼくがひとりで用意しなきゃいけない。
幸いこの辺りにはぼくら以外いなかったようだから、ぼくを狙うようなポケモンはいないだろうし。
問題はこれぐらいかな、と考えて一番大切なことに気がついた。
ひとりぼっちはとても寂しい。
朝目が覚めてから、太陽がまだ空高くにある今までの時間しかひとりで過ごしてないけれど、ぼくはもうこの森が静かなだけで寂しくなってるんだから、これから先ずっとこんな状態なんて耐えれそうにない。
ぼくは自分の小さな体を奮い立たせて、翼を力強くはばたかせた。
やっぱりみんなを探しに行こう!
ムクホークとムクバードがそれぞれどこに行ってしまったのかもわからないこの森の外に出たことすらないぼくだから、探せないかもしれない。
でも、もしかしたら案外近くで見つかるかもしれない。
ネガティブなことも思い浮かばないわけじゃなかったけれど、翼を動かすとともに頭の中から消して、ただみんなとまた一緒に過ごせる事だけを想像した。
ぼくならできる。きっとできる。
念じるように繰り返し思いながら、ぼくは森を飛び立った。
暫くはまだ寂しいかもしれないけれど、それがすぐに消えることを願って。
作品名:さまよえるさみしがり 作家名:鏡 鈴