milk×kiss
風呂上りに鬼道さんはいつも牛乳を飲む。
体にいいだのなんだの言ってるけど、ただ背を伸ばしたいだけだろう。 たぶん。
周りは俺の背丈のほうが低いと思ってるみたいだから、別にいいんじゃないかなぁ。
牛乳のパックからとくとくとそれを注ぎながら、小さく込み上げる笑いに肩が震えた。
ポニーテールで稼いでるんだと思う。
身長。
「どうぞ」
ことん、と鬼道さんの前のテーブルにそれを置く。
ありがとう、とお礼を言いながら、彼はコップに口をつけた。
意外と指細い。
首も肩甲骨も。
牛乳を飲む鬼道さんをぼーっとする振りをして観察する。
ぁ。 目あった。
赤い赤い、瞳と。
「・・・なんだ?」
訝しげに寄せられる眉。
どうしようもなく触れたくなって、俺は手を伸ばした。
「ちょ、」
あんなに外にいるというのに、その肌は全然荒れていなくて。
まだ濡れて水の滴る髪も痛んでいない。
テーブルから乗り出して、首、肩甲骨を指を這わせる。
くすぐったいのか鬼道さんは身を捩らせた。
「・・・可愛い・・・・・・」
俺の口から零れたその言葉に、彼はぼっと顔を染める。
な、ななな、と意味を成さない声がその薄い唇から聞こえた。
「あ、鬼道さん、牛乳零れますよ?」
大きく傾いていたコップを手ごと支えると、鬼道さんの意識はそっちに戻ったみたいだった。
その頬は赤いままだったけど。
「なんでそんなに身長伸ばしたいんですか?」
興味本位で聞いてみると、計算のないまっすぐな上目遣いで見上げられた。
じんわりと潤んだ瞳が睨むように細められる。
コップを握る手が少しだけこわばった気がした。
「・・・す、」
「す?」
「す、きな、ヤツより・・・っ。 背を伸ばしたいというのは、可笑しいことか?」
そっぽを向きながら、鬼道さんはぼそぼそと呟く。
「お前は・・・、細くてスタイルもよくて、顔も綺麗なのにそれに加えて背も高いだろう・・・」
言っていて恥ずかしくなってきたのか、耳まで鬼道さんは真っ赤だ。
ヤバイ、
それが、理性の限界だった。
ぐいっ、と鬼道さんを引き寄せる。
「えっ、さ」
くま、と言う前に。
俺はぎゅぅ、と鬼道さんを抱きしめた。
暖かい、柔らかい、
素直で正直で真面目で・・・
好きだ、本当に。
「鬼道さん・・・」
首に顔を埋めて、綺麗な首筋に、指の代わりの舌を這わせる。
ビクッ、と跳ねたその肩を再度抱きしめなおして。
幸せだと、心の底から感じて。
「ぃたッ、」
印。
「ごめんなさい、鬼道さん」
「・・・ぇ、」
「アト、残っちゃいました」
首から顔を上げてにこりと微笑みかけると、一瞬困惑したように目を彷徨わせたのちにチームの司令塔ははぁ?!と大声を上げた。
「明日の練習どうしろというんだ!」
「髪、下ろすのはダメですか? もしくは見せ付けちゃえば」
「・・・バカ者!」
「可愛いですよ」
「っ,」
鬼道さんの瞳のように赤くアトのついた首を眺めて、俺は目を細めた。
取られたくないし。
そんなこと、言わないけど。
身長もしばらく負けるつもりはない。
笑うと、何が可笑しいんだ!と言われてしまった。
可愛いなぁ、本当に。
milk kiss
(鬼道さんの首、
他のやつらに見せ付けてやらなくてもいいでしょう?)
(俺のなんですから)