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人生惚れたモン負けや

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「あ、」
「あ?」
「なんか今、めっちゃクレープ食べたい気分」

突然そんな事を言い出したのは、俺の親友であり恋人の忍足謙也である。
休みの日、久しぶりに買い物でもしようとそこそこ近場のショッピングモールに来ていた。
買い物も済んだし、いい時間だしでそろそろ帰らなあかんなぁ・・・と考えている時にぴたりと歩みを止めたと思えばクレープが食べたいのだと言う。
そして言うが早いか食品売り場へ足を向けた。ちょっと待て。

「謙也、クレープ食べたいのになんで食品売り場やねん。」
クレープを売っているのは入口付近のフードコートであって店内スーパーではないと思う。
いや、アイスやお菓子やらで売ってない事はないけれども。

「やって並ぶやん。待つの嫌やし、ウチに小麦粉とかあるから中身だけ買って作ろ思うて。」

当然だろうとでもいうように買い物カゴを持って生クリームを選んでいる。
並ぶのが嫌だから手作りって。女子ならともかく中三男子がクレープ作るんか。普通女子でも作れんやろ。
色々考えるこちらを気にも留めずに真剣に賞味期限やらを確認していた謙也は横にあったチョコレートソースと共にカゴに入れると振り返って問う。

「白石は何入れたい?」
「え、」
「今日おとん出張でおかん夜勤やし、翔太は合宿やから誰もおらんのや。寄ってくやろ?ちゅーか泊ってけや。」

笑って告げられた事実に動揺を隠せない。誰もいない。つまりは二人きり。男子的に据え膳なんやけどわかってんのか、泊ってっていいんかとか、夕飯時にクレープ食べるとか不健康にも程があるとか、そもそも作れんのか、とか。
言いたいことも聞きたいことも沢山あるが、とりあえず。

「チョコソースと生クリームに合わせるんならバナナかイチゴやな。」
「定番きたなぁ。こんなとこまでセオリー通りかい。」

けらけら笑って果物を選んでるのが可愛く思えてしまって、なんや新婚みたいでええなとか思ってしまって。
俺のキャラちゃうやろ、なんて思うけど、謙也が可愛いのは事実だし、一緒にいられるのが嬉しいのも事実。
恋は盲目っちゅーか、愛すべき仲間である一氏ユウジの座右の銘通りってことやな。

曰く、人生惚れたモン負けや。
作品名:人生惚れたモン負けや 作家名:さも