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銀の風邪薬

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見慣れたパッケージのその風邪薬を宝物と扱う事に、躊躇いや羞恥なんて感情は微塵も感じなかった。
使いかけのその薬の小箱は今も大切に机の中に仕舞ってある。


「銀の風邪薬」


本当は大人しくそれを服用せねばならないのだが、個人的には開封どころか一切指紋も付けずに神棚にでも飾っておきたい。何せ朝倉が買ってきてくれたのだ。他でもない、俺の為に。意識した途端にカッと体温が上がる。今までの不愉快な熱さではなくもっと、そう、幸福な。……ああ、風邪が治ったのか。そうだ、今治った。あさくら、お前のおかげだ。ありがとう。だからこれは一生大切にする。
「いや…いいから…今すぐそれ飲んで寝ろ」
……あさくらの言うことは至極尤もだ。
「だが、俺は本当に……」
「いいから…」
あさくらは俺の掌に乗せてあった紙袋をひょいと奪うと、止める暇も無くあっという間に袋を開けた。
袋の中に入っていたのは銀色の小箱。
特に喉、咳が辛い風邪に有効なのだと度々CMしている薬。それも躊躇い無くびりびりと乱雑にビニールの包装を破いていく。
「一回二錠…だな」
裏の注意書きをちらと見てから、あさくらは取りだした錠剤を言葉通り二錠分パキリと折って最初の姿勢のまま硬直していた俺の掌にぽんと乗せた。
「朝は食べた…のか」
「あ、ああ、少し……」
「……これは飲める…か?」
「?飲めるぞ。あさくらから貰ったものなら俺はマグマでも飲む」
「そう…か。昔は…カプセル、飲めなかった…だろ」
買おうか少し悩んだ。と、あさくらが僅かに表情を緩める。
そんな昔の事を覚えられていた事に喜びと、幼い頃の不出来な自分への羞恥心が一度に押し寄せる。
何を言っていいのか分からず、掌の薬をぎゅうと握る。シートの尖った角が内側に刺さっている筈なのだが熱のせいか、心理的な問題か痛みは全く感じなかった。
「俺はもう行くが…ちゃんと薬飲め…よ」
あさくらは薬の箱を今度は丁寧に薬局の紙袋に戻し、俺に手渡す。
少しだけ触れたあさくらの手は酷く冷たかった。いや、俺が熱いのか、それとも両方か。
思わず黙ってしまった俺にもう一度あさくらが先程の言葉を繰り返す。再三釘を刺されて今度は大人しく頷く。
「放課後…また寄るから…な」
もう一度頷くように頭を軽く下げると、そこにぽん、と掌が触れた。
そのまま軽く叩くようにぽんぽん、と今度は肩に二回触れ、あさくらは「じゃあ…な」とだけ残して玄関の扉を閉じた。


「……今俺、絶対四十度あるぞ」
頭がくらくらする。視界も霞む。
耐えきれなくなって、重力のまま廊下にへたりと尻を付く。
零れそうになる涙の原因は熱か、それとも別にあるのかは自分ですらも判断が付かなかった。
作品名:銀の風邪薬 作家名:桐風千代子