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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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みくきみ未来妄想プチアンソロ「MOIRAI」サンプル

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「おはよう、今日は良い天気だよ」
 開かれたカーテンからは、燦々と朝日が射し込みその眩しさに公麿は目を細めた。明るい陽射しが、三國の眠るベッドへと差し込み、青白い肌に赤みを灯していく。ゆっくりと開かれる瞼に、愛おしく募る想いを噛みしめながらベッドへと一歩近付いた。
「具合はどう?」
 おはようと、返す男にそう問えば調子がいいよと短い言葉が挨拶に続いて交わされた。
「今日はしてくれないのか?」
「なにが?」
 そう問い掛けた瞬間、三國の顎髭が公麿の顎に触れ、朝の乾いた唇が公麿の唇に重ねられた。
「ちょっ……」
 慌てて身を離す公麿の首に三國の腕が回される。
「いつもしてくれるだろう?」
「そうだけど……さ」
 おはようの挨拶にキスをすることになったのはいつ頃だっただろうか、もう何年も暮らしているが、三國から告白され関係を結ぶようになってからは朝の努めとなっている。
「お前はいつもそうだな、翌日はいつもしてくれない」
 そう拗ねる男が年上であることを長い付き合いの中で忘れそうになることがある。セックスをした翌日は気恥ずかしくてキスしたくないのだ。それに三國が気付いてからは、そのことでいつも揶揄される。三國曰く、いつまでも初心で愛らしいということだが、もうそんな年齢はとっくに過ぎている。だが、羞恥心に年齢と経験値は関係ない。
「はっ、恥ずかしいんだよっ」
 顔を赤らめる公麿の身体をそっと三國は引き寄せ、熱を持った頬に自らのそれを重ねる。朝の少し冷たい三國の肌は心地よく、恥ずかしさを隠すようにその頬に身を擦り寄せた。




 いつからそんな感情が芽生えていたのかと問われ覚えていないと口にしたら、三國は少し困ったような表情で意外と薄情なのだなと嘆かれたことがあった。そこから暫く機嫌を損ねて拗ねたように言うことを聞いてくれなくなったが、発端は覚えていると指の根元に触れれば途端に機嫌を直してくれた。
 薄情だと言われればそれまでだが、彼が指輪をしていないことに気付いたのは、あの時が初めてだった。単に観察力が無いだけかもしれないが、あの時突然それが気になったのだ。
「指輪してねぇの?」
 そうマウスの上に乗せられた三國の指を見たときに、一瞬しまったと後悔した。いつからしていないのか覚えていない、ということは出会った頃寄りかは幾分痩せてしまった彼の指から落ちてしまったこともある。だが、記憶を蘇らせても再会してから指輪している記憶はなかった。
「そういえば、してなかったな……」
 あの世界でしていた時は特に意味がなかったらしく、この世界でも付けようという意識もなかったようだ。
「して欲しいのか?」
「いや、別にいいんだけど……」
 にやにやと口許を緩め、三國の片手が顎髭を弄んでいる。その仕草はなにか企んでいるときに見せる三國の癖だった。
「では言い方を変えようか、俺に嵌めたくないか?」
「えっ……」
 三國のその言い方は指輪を強請っているのではなく、まるで婚約指輪でも贈るような口ぶりで公麿は落ち着かないのだ。口説かれているようなむず痒い高揚を感じ、首を振って三國の言葉を否定した。
「ないない」
「そうか、俺は嵌めたいけどな……」
 ディスプレイの画面に楽しげに顎髭を弄る三國の姿が映り込み、その顔を公麿は睨み付けた。
「あっ、あのさ、それ意味判って言ってんのかよ?」
「そのつもりなのだが、伝わっていたようでなによりだ」
 さらりと口説いているのだと告げられた言葉に、公麿の頬は赤く染まり慌てて離そうとした掌は抑え込まれ指の根元を、指輪を嵌めるであろう場所を三國の指先に弄られている。
「べっ、別にさ、そんなもの無くてもいいわけだしさ……」
 急にそんなことを三國が言い始め公麿は動揺していた。今まで、具体的な行動は取ってはいなかったが、互いに好意があるというのは理解している関係だった。それ以上、行動に出なかったのは色々と二人の間にあるハードルが高かったからだ。
 それを無理に飛び越えて欲しいとは公麿は思えず、三國のことを思うとこれ以上の負担は掛けたくはない。
「聞いてくれ、色々考えていたんだがな、踏ん切りが付いた。多分、お前には迷惑を掛けると思うが受け取って欲しい」
 迷惑、その言葉がのし掛かる。そう三國に思わせたくないから、公麿は黙っていた。おそらく、今日まで三國が黙っていたのもそういうことだろう。だが、もう止められなくなってしまったのだろう。そう思うと、指輪の事を問い掛けたのは失敗だったと悔やむのだ。
「だからさ、いらないって、そんなの無くてもさ……」
 そんな物無くても、公麿は三國の側を離れるつもりは無かったし、必要でもないのだ。いや、諦めていた。それが三國は公麿を縛るだろうと考えているようだが、公麿には言わせれば逆なのだ。
「要る、要らないの前に返事を聞かせて貰いたいのだがな……」
 確かにそうだ。前提としての好意をないがしろにしている。互いにそうだろうとは知覚しているが、具体的に口にしたことはないのだ。返答の催促をする三國もまた一度もそのことを口にしたことはない。
「そのさ、返事の前にちゃんと言えよ。一番大事なこと言ってねぇだろ、あんた」
 もう此処まで来てしまえば、拒否することは出来ないのだろう。ならば、せめて相手から引き出したいとそっと公麿は背後から三國に抱きついた。肩に顎を埋めながら、その頬が緩み、言葉が呟かれるのを待っていた。
「愛してる」
「俺も…………」
 浅い接吻を交わした後に、実はもう作っていたのだと二つ指輪を出された時に思わず笑ってしまった。聞けばずっとタイミングを伺っていたのだという、それも別に今日が初めてというわけでもなく一ヶ月ほど前からだという。
 そんな素振りは見せたこともなく、そのくせずっともだもだと悩んでいたのかと思うと愛しくて公麿は頬に軽くキスをした。擽ったそうに笑う三國の耳元で早くと急かすように囁くと掌を三國の前へと翳した。
 互いの指に指輪が嵌った瞬間、形だけだというのに妙に感動している自分に公麿は驚いていた。互いを縛る掟も何もないというのに、形に縋りたくなるのはこれが後に残る物だからだ。あの写真が大切な一枚になったように、この指輪も大事な物の一つとなるだろう。
 あの写真を三國に初めて見せた時、それは三國とこの世界で再会を果たした日のことだった。この指輪に込められた想いがいつから芽生えたのかそれは定かではないのだけれども、その予兆を感じた三國と再会したことは今でも鮮明に覚えている。


Hasta Maana / 冒頭部分