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ガラスの靴

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「のう柳生。お前さんなんでシンデレラが靴を置いていったか分かるか?」
突然の仁王君の質問に驚き、彼を見た。
彼は私のベットの上に寝転がりながらシンデレラの絵本を読んでいた。
「・・・どこからそんなもの持って来たんですか?」
私が溜息をつきながら尋ねると、絵本をパタンと閉じてどうでもいいかのように地面に投げ捨てる。
「今日は柳生の家に行くのは決定事項じゃったからな。柳生は俺が読むようなマンガとか持っとらんの知っとったし、図書室で借りてきた。」
それならば私の家に来なければいいでしょう、とは言えなかった。
仁王君が来るのを私も心の中では喜んでいたからだ。
それにしても別に借りてくるのは絵本でなくてもよいような気もするが。
「シンデレラは慌てていたから靴が脱げてしまったのでしょう?何故そんなことを聞くんです?」
仁王君は少し寂しそうに微笑む。
「柳生は夢がないのう。夢が無さ過ぎてつまらん。」
私は少しむっとしながら聞き返す。
「それじゃあ仁王君は何故だと思うんです?」
そうじゃな、と仁王君は少し考える素振りを見せる。
「俺は、もう一度王子と会うきっかけが欲しかったんじゃと思う。」
私が仁王君を見つめると、仁王君は苦笑しながら照れくさそうに頬を掻いた。
「人っちゅうもんはきっかけとか理由とかがないと行動できん生き物じゃろ?だからきっとシンデレラは王子がまた会いに来れるようなきっかけを作ったんやと思う。」
仁王君の言っていることはなんとなくだが分かった気がした。
しかし、それは違うのではないかとも思った。
「それはどうでしょう。本当に愛しているなら理由などなくとも会いに行くものではないですか?」
仁王君は首を振る。
「好きって思っとっても会いに来ん奴は来ん。じゃからシンデレラみたいに靴を置いて行くこともたまには必要なんじゃ。」
なんとなくその言葉が仁王君の身近であった話のような気がした。
それを問い掛けようとした時、仁王君は自分の鞄を持ってさっと立ち上がる。
「それじゃ、今日はもう帰るぜよ。」
「え?まだ来たばかりで・・・」
仁王君は私の言葉を無視してスタスタとドアに向かう。
「ちょっと待ってください。せめて見送りに・・・」
「いい。一人で構わん。」
そう言ってパタンと私の目の前で扉が閉められた。
「・・・どうしたんでしょうか。」
やれやれ、とベットに腰掛けると、何かが手に当たったことに気付く。
よく見るとそれは黒仁王君が呼んでいた絵本だった。
「忘れ物でしょうか?」
それを手に取ったところでさっきの仁王君の言葉が思い出される。


好きだと分かっていても会いに来ない人は来ない。


「なるほど。そういうことですか。」
仁王君はきっと私に会いに来て欲しかったんだろう。
だからあんな話をしてこれを置いて帰った。
「全く、馬鹿な人ですね。」
こんなことをしなくてもいつでも会いに行くのに。
王子は姫が会いたいと言ったら会いに行くものだ。
仁王君はきっとシンデレラの気持ちを考えすぎて王子の気持ちには気付かなかったのだろう。
私はクス、と一人笑い絵本を持って立ち上がる。
明日も学校で仁王君とは会うことになるだろうが、何故か今すぐに届けて行きたい衝動に駆られた。
仁王君も会いたいと思ってくれている。そんな確信があった。
手元の絵本を見て、随分なガラスな靴だと思った。
今度、出かけた時にでもガラスの靴や絵本でない何かをプレゼントするのもいいかもしれない。
そんな考えを巡らせて私は仁王君の家へと足を進めた。
作品名:ガラスの靴 作家名:にょにょ