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あいつは噂のチャッキィ・キャット!

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行き交う人々、他愛のないおしゃべり。
季節はすっかり冬だが、寒さを感じさせない活気がそこかしこに溢れていた。
最近完成した郊外の大型ショッピングモールには、学園と違った賑わいがある。
慣れない雰囲気に少しばかり気分が浮ついていたのだろう。
しきりにカーテンで区切られた外の様子を確認しては鏡に視線を戻す、ということを先ほどから繰り返していた。
鏡に映った姿の何が変わるわけでもないのに、だ。
因みに、自分がいるのは大通りから一本脇に入ったファンシーショップのバックヤード。
広さは教室を少し狭くした程度だろうか。壁はいかにもなパステル調の淡い黄色で塗られている。
休日にはキャラクター・ショーを開催するらしく、部屋にはロッカーと鏡台が完備されていた。
もちろん空調も行きとどいており、その点では快適だ。
けれど、その反対側の区画は倉庫も兼ねていて、ふわふわキラキラした物体がところ狭しと積まれている。
小さな女の子向けの小物や文具、もう少し上の層を狙った雑貨の数々。
おおよそ自分とは縁のない、甘ったるい香りのしそうな世界。
それだけでも居心地が悪いのに、何故だかぬいぐるみの一体と目があった気がして、さらに胸がざわついた。
僅かに生じた違和感を振り切ろうと、もう一度外を見る。
「先ほどからずっとそうしているな、エスカバ」
「バダップ……!」
しかし、その行動を見咎めるように部屋の奥から静かな声が響いた。
ばつの悪い表情を浮かべながら振り向けば、研ぎ澄まされた冷静さを宿した双眸がこちらを射すくめる。
「悪ィな。どうにも落ち着かなくってよ」
「心配することはない。君は君の役割を全うすればいい」
まるですべてを見透かしたように淡々と告げられた級友の言葉は、心に引っかかっていた不安を砕くようだった。
そう、なにも自分たちは買いもののためにショッピングモールを訪れたわけではない。
これはれっきとしたミッションなのだ。
「既に成功への筋道は描かれた。後は行動するだけだ。結果は自ずとついてくる。それとも君は俺の作戦に不満でも?」
「いいや、ねぇよ。アンタはいつだって完璧だからな」
自信たっぷりな口調と堂々とした立ち振る舞い。
バダップの一挙手一頭足で、あっという間に日常が戻ってくる。
肩をすくめて首を振り、にやりと彼に笑いかけた……が、
「君たち、いいかげんにしなよ」
「ん?」
「は?」
腹の底から怨嗟のように呟かれた声に合わせて、部屋の奥にゆらりと蠢く影。
禍々しいオーラを纏いながらも、一歩一歩とこちらに近づいてくるそれは、お化けや幽霊といった類ではない。
ふかふかの質感。身体に対して明らかに巨大な頭部。
人とは異なるフォルムがわなわなと怒りに震えている。
一瞬だけ言葉を失った二人に向けて、その『きぐるみ』は吠えた。

「やって、られるかぁああああっ!!」


**あいつは噂のチャッキィ・キャット!**