世界じゃそれを恋と呼ぶんだぜ
イギリスは、目の前で起きている事実に心の中で怒りを爆発させた。
こんなにも急いでいる、こんなときに限って信号が赤、赤、赤。
確率は2分の1のはずなのに、どうして3回連続で赤なんだ。アメリカがオレを困らせようとしてサイバーテロでもしくんだんじゃないのか。それとも最近おとなしいと見せかけて、影で何をしてるかわかったもんじゃないロシアの呪いか(あれは強力だ)。はたまたあのニヤけた髭面野郎の仕業か・・・と恨まれごとには事欠かない自分の過去を若干省みる。
しかし。
今はそれどころではなかった。
久しぶりに、本当に久しぶりに、会えるのだ。
待ち合わせの相手の顔を思い浮かべただけで、鼓動が早くなるのをイギリスは感じた。
今日の彼はどんな感じだろう。洋装か…もしかしたらキモノだろうか。いつものように清楚なたたずまいで、静かに待っていてくれているに違いない。俺を見つけたら照れたようなはにかんだ微笑みを浮かべてくれるだろうか。あのきめ細やかなしっとりとした肌を、ほんの少し桜色に染めて…。
思わず広がってしまう妄想を打ち消して腕時計に目を落とすと、時刻は待ち合わせ3分前。律儀な彼はもう、自分を待っていてくれるはずだ。それを思うと気が急いてならなかった。
(べ、別に早く会いたいってわけじゃないんだぞ!)
ただなんというか、その、あれだ。自分を待っていてくれる人のために急ぐのは人として当然の行いでありまた英国紳士としての礼儀が…と、しなくてもいい言い訳をしてしまう。
そう、その英国紳士とやらが問題なのだ。
本当だったらスーツが皺くちゃになったって汗だくになったって全速力で駆け出して行きたいのに、どうやら相手は自分のことを「英国紳士」だと思ってくれているらしかった。よもや自分のことを紳士扱いしてくれるのは日本くらいだと思いつつ、それでもせっかくのイメージは断固として守らなければならなかった。
紳士たるもの何時いかなるときも沈着冷静で、スマートでなければならない。待ち合わせの相手に会いたいからって走っていくようなまねは言語道断だった。
(いやだから別に早く会いたいってわけじゃないんだ!)
あぁでも。そんなことはもう本当にどうでもよかった。
この角を曲がれば、待ち合わせ場所はもう目の前。
やっとやっと、君に会える。
角を曲がったその先の信号は、
―青だった。
作品名:世界じゃそれを恋と呼ぶんだぜ 作家名:オハル