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沼地に沈む

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美しい顔が、目の前で微笑んでいる。
それは子どもを見る母親の慈愛に満ちた微笑みにも、幼い子供が母の腕の中で見せる笑みにも見えた。
だが、そんな優しさを裏切っているのはその目だ。
ぎらぎらと底光る眼は、今まさに獲物をその牙に掛けようという獣の様子をしている。
ふふ、と赤い唇から吐息が漏れた。それはそのまま目の前にいる僕にかかった。

「嬉しいな、レハトとずっと一緒にいられるね」

僕に覆いかぶさったティントアは、無邪気な口ぶりでそういうと拘束していた手を離して頬を撫でてくる。
こわばる僕とは対照的に、いつもは表情に乏しい彼の頬は紅潮しており実に嬉しそうだ。
長い髪が、仰向けに横たわる僕の横の敷布に零れ落ちてゆるく渦を巻いていた。
それほど華美ではないが、上等で清潔な布の敷かれたここはティントアの寝台の上だ。いや、僕と彼のというべきだろう。いくら抵抗を感じても、それは事実だった。

「ね、レハト」

甘えるような声でくすくす笑って、ティントアは再び僕の腕を掴んでゆっくりと体重をかけてくる。寝台はそれなりに沈んで僕を受け止めてくれるが、それにも限界がある。
ティントアは男で、僕は女だった。振り払おうにも力が足りない。
最後の日に「彼」への告白を妨害された僕は、怒りにまかせて男を選択したが、ティントアによって選択すらなかったことにされてしまったのだ。もともとは女になりたかった体は篭りの間にみるみる丸く柔らかくなってしまった。
ぎゅっとより強く腕を掴まれて思わずうめき声が漏れる。

「だぁめ。僕以外のこと考えてたでしょ、だめだよ。ほら、ねぇ」

幸福そうな微笑みのまま、ティントアはさらに顔を近づける。互いの鼻の頭がぶつかっていた。
視界にはもうティントアの顔以外がうつらない。
それは僕のこれからのようでもある。次の王になるのは僕だと、そうリリアノは言っていたが、どうやったものか籠りが明けてみれば僕は神殿に行くことになっていたのだ。
そして毎日のティントアの通いと束縛に、僕は身近にいた「彼」に想いを告げることすらできなかった。
押しつぶされそうだ。今こうして仰向けの僕の上にのしかかるティントアという重しは、日増しに大きくなっていくのではないかという恐怖が心をかすめる。

「ほらまた。レハトったら」

強引に口をふさがれた。
幾たびも重ね合わせ、ティントアは先ほどよりも顔を赤くさせ、潤んだ眼をして僕を見つめる。そして珍しく早口で言いつのった。

「僕ね、考えたんだ。レハトが僕と一緒じゃないから、僕だけが好きだから駄目だったんでしょう? でも今は違うよね。だってレハトには僕しかいないもの。僕にもレハトしかいないんだ。ね、僕たち一緒だよ」

美しく、幸福そうに笑うと、ティントアは再び口づけを始めた。
さらさらした彼の髪が僕の額をくすぐっている。きつく腕を拘束していた手は、僕の肌の上をさまよっていた。
急にこみあげてきた感情が胸を突き上げて、くいしばった歯の間からうめきが漏れて、頬を涙が濡らしていく。

「どうしたの、レハト、痛かった? ごめんね。もっとゆっくりすればよかった。時間はまだたくさんあるんだから」

見られないように顔を覆った腕をなだめるようにさすって、ティントアは再び僕の肌を撫で始める。熱く滑らかな指が、全身を這って行った。

「好き。愛してる……。僕の、だ。全部……。好きだよ、レハト」
「ティント、ア」
「なぁに? ふふ」

裸にされた肌寒さだけでなくぶるぶると震える僕の足を開かせて、ティントアは花のように笑った。
作品名:沼地に沈む 作家名:はまこ