二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ゆめまぼろし

INDEX|1ページ/1ページ|

 
するり、寄せた肌は不思議な感触だった。汗ばみ、しっとりとした柔らかさと同時に、皮膚の下を流れる熱い血と少しごつごつした筋肉の硬さが感じられる。
 ティナの柔らかい髪に、フリオニールの指がさくりと差し入れられる。幾つもの武器を扱う器用な指だが、ティナに触れるのはまた異なるらしい。こうして熱を分け合うのは初めてではないのに、ティナの髪を梳くフリオニールの手つきは少しまだぎこちない。
 フリオニールの肩口に顔をうずめるような形になっているため、彼の表情は見えない。けれども、きっと今の自分と同じように微笑んでいるような気がした。
 さくり。さくり。触れる指先から、フリオニールの真情が流れ込んでくる。交わされる言葉は無いけれども、偽りの無い心が伝わってくるような気がした。同じように伝わればいいと思いながら、お返しのように、フリオニールの肌をゆっくりとなぞる。
 そこには、幾つもの戦を潜り抜けた証とも言えるのだろう、古い傷跡が残されていた。
「……傷跡、いっぱいあるだろ。気持ち悪くないか?」
「ううん、そんなことない。……その時、わたしが居たらよかったのに」
 自分でも恐れる、自分の中に眠る力。制御できないほどの力は、けれどもただの『力』に過ぎない。むやみに怯えて振り回せば周囲を傷つけるが、傷跡など残すことなく癒すことだってできる。それを教えてくれたのは、フリオニールだ。
 文字通り、生きてきた『世界』が違うのだから、フリオニールの過去にティナが存在することなどありえない。だがフリオニールは、ティナの呟きを夢想だと笑い飛ばしはしなかった。
「……いいな、それ」
 それぞれ違う『世界』から集った戦士たち。口には出さないけれども、戦いが終われば元の世界に戻るのだろうという予感は、二人ともに漠然と抱いている。
 もしも、同じ『世界』で出会えていたなら。もしも、もっと幼い頃から出会えていたのなら。
 もちろん、今と異なる軌跡を描いたなら、今と同じ関係にはなれなかったかもしれない。それでも、いつか必ず訪れるであろう別れに、怯えることもなくなるのだ。
「……もっと早くに出会えててさ。それこそ……そう、子供の頃からとか。そうしたら、ティナの小さい頃、見れたんだな」
 ちゅ、と軽く髪にくちづけられる。柔らかく降り注がれる声には、欲だけではない、もっと切実な熱を孕んでいた。
「ティナはすごく可愛いから、ライバルも多くて大変かもしれないけど。でも、ティナの一番傍でティナを守ることは、オレも譲らないし」
 当たり前のように幼いころからともに育ち、生きていくことができたのなら。同じ夢を見て、同じ時を重ねていけたなら。
 つないだ手を離さずにいられたなら、どれほどしあわせだっただろう。
「……そうね。わたしも、フリオニールの小さかった頃の姿、見たかったわ」
 過去を変えることはできず、未来を紡ぐこともできない。どれほど血を吐くほどに熱望しても、何も得ることはできないのだ。
 それでも、想うことだけはできると、そう信じたかった。
作品名:ゆめまぼろし 作家名:猫宮 雪